デイヴィッド・レイランド指揮 東京都交響楽団 第1037回定期演奏会Cシリーズ

〝春〟に相応しい生命の息吹が会場を満たす――レイランド&都響による歌心にあふれた演奏会

都響と3回目の共演となるベルギー出身の指揮者デイヴィッド・レイランド、得意とするシューマンの交響曲第2番(21年)、第3番(23年)に続き、今回は第1番をメインに据えた。

都響と3回目の共演となるデイヴィッド・レイランドが指揮台に立った 提供:東京都交響楽団/(c)堀田力丸
都響と3回目の共演となるデイヴィッド・レイランドが指揮台に立った 提供:東京都交響楽団/(c)堀田力丸

前半の1曲目はメンデルスゾーンの姉ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼルが書いた唯一の管弦楽曲「序曲 ハ長調」という珍しい作品。シューマンの交響曲の初演を指揮するなど縁の深いメンデルスゾーンとの繋がりも感じさせるプログラミングだ。
「序曲」はホルンの温かい響きに始まり、優美なメロディーが木管、弦楽器などによって奏でられる。時折ベートーヴェンを思わせる勇壮なフレーズも顔を出すが落ち着いた気品のある作品からは、才能豊かな女性だったことが伺えた。

続くモーツァルトの最後のピアノ協奏曲、第27番はティル・フェルナーの華やかで磨き抜かれたピアノの音色に惹きつけられる。レイランドは指揮棒を持たず優雅なフレージングでオーケストラもフェルナー同様たっぷり歌う。1楽章の展開部で弦楽器群が転調しながらマイナーな旋律を重ねるところではその陰影にドキッとするほどだ。単音によって奏でられる深い祈りのような旋律が美しい2楽章、「春への憧れ」に転用した希望に満ちたメロディが繰り返される3楽章まで全てが深い歌心にあふれるモーツァルトだった。

モーツァルトのピアノ協奏曲でソリストを務めたティル・フェルナーは、華やかで磨き抜かれたピアノの音色を聴かせた 提供:東京都交響楽団/(c)堀田力丸
モーツァルトのピアノ協奏曲でソリストを務めたティル・フェルナーは、華やかで磨き抜かれたピアノの音色を聴かせた 提供:東京都交響楽団/(c)堀田力丸

後半のシューマンは編成も前半の弦楽器12型から14型に増え、まさにタイトル「春」に相応しい生命の息吹を感じさせる演奏。レイランドはシューマンが書いた全ての旋律をしっかり際立たせ、1楽章展開部での弦楽器や木管楽器が織りなす旋律の綾には凄みを感じるほどだ。2楽章の息の長いフレージングも内声部の細やかな表現まで丁寧に聴かせ、3本のトロンボーンが心の翳りのように奏でたメロディが3楽章ではスケルツォに引き継がれる。楽想の変化にメリハリをつけ、全ての音に意味を持たせてしっかり強調するレイランドのタクトによって、シューマンの交響曲の緻密な構造と歌心が明晰に描かれた。フィナーレの輝かしいほどの推進力に満ちた演奏に客席も盛り上がったところで、アンコールに弦楽器だけのコラールが演奏された。
作曲者のヤン・ヴァンデルローストはレイランドと同じベルギー出身で友人でもあるそうだ。ヴィオラとチェロから始まり弦楽器の分奏が美しいコラールは、生きとし生けるものへ優しい光を与えてくれるような温かく美しい響きだった。(毬沙琳)

シューマンの交響曲第1番。レイランドのタクトによって、緻密な構造と歌心が明晰に描かれた 提供:東京都交響楽団/(c)堀田力丸
シューマンの交響曲第1番。レイランドのタクトによって、緻密な構造と歌心が明晰に描かれた 提供:東京都交響楽団/(c)堀田力丸

公演データ

東京都交響楽団 第1037回定期演奏会Cシリーズ

2月23日(月・祝)14:00東京芸術劇場 コンサートホール

指揮:デイヴィッド・レイランド
ピアノ:ティル・フェルナー
管弦楽:東京都交響楽団
コンサートマスター:山本友重

プログラム
ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼル:序曲 ハ長調
モーツァルト:ピアノ協奏曲第27番 変ロ長調K.595
シューマン:交響曲第1番 変ロ長調Op.38「春」

アンコール
ヤン・ヴァンデルロースト(1956―):カンタベリー・コラール(中原達彦編曲による弦楽合奏版)

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毬沙 琳

まるしゃ・りん

大手メディア企業勤務の傍ら、音楽ジャーナリストとしてクラシック音楽やオペラ公演などの取材活動を行う。近年はドイツ・バイロイト音楽祭を頻繁に訪れるなどし、ワーグナーを中心とした海外オペラ上演の最先端を取材。在京のオーケストラ事情にも精通している。

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