スイスの名門、チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団が音楽監督・首席指揮者のパーヴォ・ヤルヴィと来日した。取材したのは10月18日、サントリーホールにおける公演。ベートーヴェンの交響曲第5番をメインに、前半、同じくベートーヴェンの「献堂式」序曲とラフマニノフのピアノ協奏曲第2番が演奏された。
![ブルース・リウ (C)N. IKEGAMI/JAPAN ARTS](https://classicnavi.jp/wp-content/uploads/2023/10/f9540b07bf8b6bfd9aa45672d822f6df-1024x683.webp)
協奏曲のソリストは2021年ショパン・コンクールの覇者ブルース・リウ。パーヴォ&トーンハレ管との共演は今月4日が初だったというが、両者の相性は良いようで、テンポやリズムの変化に富んだ掛け合いが繰り広げられた。クリアな音色を駆使するリウのラフマニノフは過度な感情移入を排したもので、いわゆるロシア・ピアニズムとは一線を画しており、その意味でもパーヴォの音楽作りとうまくかみ合っていたように感じた。
![音楽監督のパーヴォ・ヤルヴィ (C)N. IKEGAMI/JAPAN ARTS](https://classicnavi.jp/wp-content/uploads/2023/10/dba168bd3bcbcfaff74742efe4595e2b-1024x683.webp)
ベートーヴェン2曲はパーヴォの真骨頂ともいえる快演。弦楽器はノー・ヴィブラート、ナチュラル・トランペット、ティンパニは口径の小さな楽器を使用するなど、ピリオド(時代)奏法に寄せたスタイル。譜面の指示に準拠し、全体的に速めのテンポ設定であった。特定の音型にアクセントを付けて強調するのは、パーヴォがかつてドイツ・カンマーフィルを指揮した時にも頻繁に行われていたが、今回のトーンハレとの共演では、それに加えて旋律の処理の仕方に変化が見られた。特に交響曲第5番の2楽章では、大きな弧を描くような旋律線を作り出していたのが印象に残った。アンコールはベートーヴェンの「プロメテウスの創造物」序曲。高速テンポながら一糸乱れぬアンサンブルはこの日一番白熱した快演となり、終演後にはオケが退場しても拍手が鳴りやまず、パーヴォが舞台に再登場し喝采に応えていた。
![チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団 (C)N. IKEGAMI/JAPAN ARTS](https://classicnavi.jp/wp-content/uploads/2023/10/c3ebf06e1124ee838b31e43d4321398c-1024x683.webp)
公演データ
【パーヴォ・ヤルヴィ指揮 チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団 日本公演】
10月18日(水)19:00 サントリーホール
指揮:パーヴォ・ヤルヴィ
ピアノ:ブルース・リウ
ベートーヴェン:「献堂式」序曲Op.124
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番ハ短調Op.18
ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」ハ短調Op.67
アンコール
J.・S.・バッハ(ジロティ編):前奏曲 ロ短調 BWV855a(ピアノ)
ベートーヴェン(イーサン・ウスラン編):エリーゼのために イン ラグタイム(ピアノ)
ベートーヴェン:序曲「プロメテウスの創造物」Op. 43(オーケストラ)
![Picture of 宮嶋 極](https://classicnavi.jp/wp-content/uploads/2023/10/miyajima-300x266.webp)
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。