ダウスゴー×新日本フィルが好相性! 妙味のある演奏で耳を楽しませる
9月の新日本フィル定期は、デンマークの名匠トーマス・ダウスゴーの指揮。プログラムには、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲(独奏:クリスティアン・テツラフ)、ブラームス/シェーンベルク編のピアノ四重奏曲第1番というドイツのハイカロリーな演目が並ぶ。

ベートーヴェンの協奏曲の管弦楽呈示部から、表情や強弱の細やかさが際立つ。この部分がかくもきめ細かに表現されるケースは稀なほど。ダウスゴーのこうした目配りは曲全体にわたって続き、いつになくシンフォニックな抑揚が形成される。一方、テツラフのソロは力強く艶(あで)やかで輝かしい。曲は、燦然(さんぜん)たるソロとデリケートなオーケストラの〝競奏曲〟の如く進行し、とかく平板になりがちな本作に立体的な妙味がもたらされた。第1楽章のカデンツァは、ピアノ協奏曲への編曲版のベートーヴェン作に基づく独自の内容だったが、このパターンではいつも派手に協奏するティンパニのことのほかソフトな寄り添いが印象的。カデンツァの意味を鑑みれば妙案だが、これもダウスゴーの配慮だったのだろうか。

後半のブラームスも同様のきめ細かな演奏。この曲は、シェーンベルクの確信犯的モダン・オーケストレーションが強調されがちだが、今回(特に第1~3楽章)は、豊かなロマンティシズムにも目が向けられ、ブラームス自身の交響曲を思わせる響きが随所に現れる。これは逆に新鮮だ。むろん第4楽章になると、ブラームス作品には有り得ない鍵盤打楽器が浮き彫りにされるなど、モダンな面白さを感じさせたが、ここも原曲の〝チゴイナー・テイスト〟が勝り、〝土臭い爽快感〟が耳を楽しませる。
全体をみれば弦楽器と管楽器の精妙なバランスが光る好演。ダウスゴーと新日本フィルの相性の良さを再認識させられた。
(柴田克彦)
公演データ
新日本フィルハーモニー交響楽団 第665回定期演奏会 サントリーホール・シリーズ
9月21日(日)14:00サントリーホール 大ホール
指揮:トーマス・ダウスゴー
ヴァイオリン:クリスティアン・テツラフ
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:伝田正秀
ソロ・コンサートマスター:崔 文洙
プログラム
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調Op.61
ブラームス(シェーンベルク編):ピアノ四重奏曲第1番ト短調Op.25(管弦楽版)
ソリスト・アンコール
J.S.バッハ:無伴奏パルティータ第3番「ガボット」

しばた・かつひこ
音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。