ミューザ川崎シンフォニーホール スペシャル・オーケストラ・シリーズ2025 クラウス・マケラ指揮 パリ管弦楽団

マケラとパリ管弦楽団の完全勝利

―フランスを代表する二大交響曲を鮮烈に再創造―

ミューザ川崎シンフォニーホールに初登場したクラウス・マケラとパリ管弦楽団が、フランスを代表する二大交響曲――サン・サーンス「交響曲第3番〝オルガン付き〟」とベルリオーズ「幻想交響曲」で、記念碑的な名演を成し遂げた。

クラウス・マケラ指揮パリ管弦楽団が、ミューザ川崎に初登場 ©N.Ikegami / MUZA Kawasaki Symphony Hall
クラウス・マケラ指揮パリ管弦楽団が、ミューザ川崎に初登場 ©N.Ikegami / MUZA Kawasaki Symphony Hall

前半のサン・サーンス「交響曲第3番〝オルガン付き〟」では、パリ管の個性が隅々まで発揮された。色彩豊かな木管群、金粉をまぶしたような金管、ルシル・ドラが奏でる温かなオルガンの響きが美しく溶け合う。
マケラは師のヨルマ・パヌラからの教え「助けつつも邪魔しない」哲学に基づき、楽員の個性を引き出しつつ、明快な構成力で全体を導いた。

第1楽章は慎重に始まり、第2主題で熱が加わると、マケラ=パリ管の本領が発揮され始めた。ポーコ・アダージョでは、オルガンと弦が織りなす温かく豊かな音色に魅了された。ヴァイオリンの変奏は繊細を極め、まるで魔法にかけられたかのようだった。

第2楽章では、スケルツォ風の前半から軽やかな4手連弾、循環主題を導く弦とピアノの連携、そして終結部のクライマックスへ。行進曲風主題にティンパニの分散和音、金管とオルガンの荘厳な旋律が重なり合う。マケラの緻密な設計のもと、すべての響きが秩序を保ちながら融合し、壮大なクライマックスが築かれた。

マケラは、楽員の個性を引き出しつつ、明快な構成力で全体を導いた ©N.Ikegami / MUZA Kawasaki Symphony Hall
マケラは、楽員の個性を引き出しつつ、明快な構成力で全体を導いた ©N.Ikegami / MUZA Kawasaki Symphony Hall

後半のベルリオーズの「幻想交響曲」は、シャルル・ミュンシュとの伝説的な演奏で知られ、パリ管の〝看板レパートリー〟とされてきた作品。それをマケラが鮮烈に刷新し、新たな歴史を刻んだ。
コンサートマスターが大きく身を反らして全体を牽引する姿に象徴される楽員の献身ぶりは圧倒的で、マエストロのためなら全力を尽くすという気概がオーケストラ全体に浸透し、その演奏が喜びに満ちていることが楽員の表情からも伝わってきた。

終楽章では、魔女のロンドと〝怒りの日〟の主題が交錯し、怒涛のクライマックスへとなだれ込む。轟音の渦が一点に集約され、天を突くような高揚感が会場を包んだ。マケラとパリ管はミューザの音響特性を活かし、明晰で色彩豊か、かつ温かみに満ちた響きを創出。色彩の奔流が天高く昇るような頂点の感覚は、空前絶後といえる。

他にも、印象的な場面も多い。第1楽章提示部と第4楽章〝断頭台への行進〟の前半を繰り返し、いずれも二度目はより深く抉(えぐ)るような表現となっていた。第2楽章〝舞踏会〟の洗練された優雅さ。第3楽章〝田園の風景〟でのコーラングレの牧笛に、オーボエが3階R4出入口前方から応える空間演出など、細部にも工夫が凝らされていた。

アンコールでは、ビゼー「カルメン」から前奏曲が華やかに演奏され、客席は熱狂。マケラにはソロ・カーテンコールも贈られ、ステージと客席が一体となる奇跡のような夜が締めくくられた。

(長谷川京介)

マケラとパリ管はホールの音響特性を活かし、明晰で色彩豊か、かつ温かみに満ちた響きを創出した ©N.Ikegami / MUZA Kawasaki Symphony Hall
マケラとパリ管はホールの音響特性を活かし、明晰で色彩豊か、かつ温かみに満ちた響きを創出した ©N.Ikegami / MUZA Kawasaki Symphony Hall

公演データ

ミューザ川崎シンフォニーホール
スペシャル・オーケストラ・シリーズ2025

クラウス・マケラ指揮 パリ管弦楽団 

6月18日(水)19:00ミューザ川崎シンフォニーホール

指揮:クラウス・マケラ(音楽監督)
パイプオルガン:ルシル・ドラ
管弦楽:パリ管弦楽団

プログラム
サン・サーンス:交響曲 第3番Op.78「オルガン付き」
ベルリオーズ:幻想交響曲Op.14

アンコール
ビゼー:歌劇「カルメン」から前奏曲

他日公演
6月19日(木)19:00、20日(金)19:00サントリーホール 大ホール

※プログラムの詳細は、下記公式サイトをご参照ください。
https://avex.jp/classics/odp2025/

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長谷川京介

はせがわ・きょうすけ

ソニー・ミュージックのプロデューサーとして、クラシックを中心に多ジャンルにわたるCDの企画・編成を担当。退職後は音楽評論家として、雑誌「音楽の友」「ぶらあぼ」などにコンサート評や記事を書くとともに、プログラムやCDの解説を執筆。ブログ「ベイのコンサート日記」でも知られる。

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