ルイージ&N響

写真提供:NHK交響楽団
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首席指揮者ファビオ・ルイージが指揮台に立ったNHK交響楽団の定期公演についてリポートする。取材したのはフランクの交響曲ニ短調などを取り上げたCプロ初日(5月19日、NHKホール)とベートーヴェンの交響曲第6番「田園」をメインに据えたBプロ初日(5月24日、サントリーホール)の2公演。(宮嶋 極)

 

5月のN響定期は昨年9月に首席指揮者に就任したルイージがB、Cプログラムを指揮し、新体制の日常における演奏活動がいよいよ本格的に始まったことを印象付けるかのような内容の濃い演奏を披露した。

 

Bプロはハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンのウィーンを拠点に活躍した3人の古典派大作曲家の作品を1曲ずつ取り上げる構成。少し驚いたのはハイドン中期の第82番を14型の弦楽器編成で演奏したこと。もしかするとルイージは昨今の古楽奏法の要素を取り入れるスタイルとは一線を画すのかと思いきや、弦楽器のヴィブラートは少なめ、ティンパニもバロック式の小さな口径の楽器を使わせていた。(植松透首席ティンパニ奏者の判断かもしれないが)

写真提供:NHK交響楽団
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ルイージの意図がよりはっきり分かったのがベートーヴェンであった。要所でノーヴィブラートのサウンドを効果的に使い(例えば、第1楽章展開部155小節目からの第1ヴァイオリンのDの音)、古楽スタイルの指揮者が採用するようなアーティキュレーションも交えながら、最新のスタイルと伝統的な演奏法の良い部分を融合した彼ならではのベートーヴェンを聴かせてくれた。古典派作品に関してはさまざまな演奏スタイルが混在する現代において、モダン・オケによるベートーヴェン演奏のあるべき姿のひとつを提示したものといえよう。また、第2~4楽章の情景描写の繊細さ、第5楽章の情感的な盛り上げ方は、古典派のベートーヴェンがロマン派へと扉を開いていく重要なターニングポイントになった作品であることを実際の音楽へと具現化したものであると感じた。充実した演奏には聴衆は必ず反応する。オケ退場後も拍手は鳴りやまず、ルイージは4月から特別コンマスに就任した篠崎史紀とゲスト・コンマスの郷古廉を伴ってステージに再登場し、喝采に応えていた。

 

なお、モーツァルトのホルン協奏曲では前N響首席の福川伸陽がソリストを務め、太く伸びやかな音と安定したテクニックで雄弁なソロを披露した。

写真提供:NHK交響楽団
写真提供:NHK交響楽団

一方、Cプロはサン・サーンスのピアノ協奏曲第5番「エジプト風」とフランクの交響曲ニ短調というフランスものの演目。この協奏曲は取り上げられる機会はあまり多くはないが、フランスの名手パスカル・ロジェが軽くデリケートなタッチで作品の面白さを存分に引き出し、ルイージも柔らかな音作りでソロを支えた。メインのフランクはルイージの旋律の歌わせ方の巧みさが際立つ演奏。N響弦楽器セクションの厚みのあるサウンドの魅力が全開となり、オケ全体がルイージの棒に応えて濃密なアンサンブルを繰り広げた。

写真提供:NHK交響楽団
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公演データ

【NHK交響楽団5月定期公演】

〇Cプロ 5月19日(金)19:30、20日(日)14:00 NHKホール

指揮:ファビオ・ルイージ
ピアノ:パスカル・ロジェ
コンサートマスター:篠崎 史紀

サン・サーンス:ピアノ協奏曲第5番ヘ長調Op.103
フランク:交響曲ニ短調

 

〇Bプロ 5月24日(水)19:00、25日(木)19:00 サントリーホール

指揮:ファビオ・ルイージ
ホルン:福川 伸陽
コンサートマスター:篠崎 史紀、郷古 廉

ハイドン:交響曲第82番ハ長調Hob.Ⅰ-82「くま」
モーツァルト:ホルン協奏曲第3番変ホ長調k.447
ベートーヴェン:交響曲第6番ヘ長調Op.68「田園」

Picture of 宮嶋 極
宮嶋 極

みやじま・きわみ

放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。

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