静岡音楽館AOI 開館30周年記念 リヒャルト・シュトラウス:歌劇「ナクソス島のアリアドネ」(演奏会形式)

日本での「ナクソス島のアリアドネ」上演史に残る公演

静岡音楽館AOI開館30周年を記念して、R.シュトラウスの歌劇「ナクソス島のアリアドネ」が上演された。沼尻竜典の指揮のもと、国内のオーケストラの首席奏者やソリストたちによって静岡祝祭管弦楽団(コンサートマスター:水谷晃、総勢38名)が編成され、キャストもまさに今が旬というべき日本人歌手たちが集った。舞台前方にオーケストラが配され、舞台後方で歌手たちが歌い演じる。演奏会形式と記されていたが、彌六の演出によって、歌手たちは簡単な演技を行う。

静岡音楽館AOI開館30周年を記念して、R.シュトラウスの歌劇「ナクソス島のアリアドネ」(演奏会形式)が上演された 撮影:日置真光
静岡音楽館AOI開館30周年を記念して、R.シュトラウスの歌劇「ナクソス島のアリアドネ」(演奏会形式)が上演された 撮影:日置真光

アリアドネの田崎尚美は、力感があると同時に柔らかさもあり、最後に人間的な情感を表す。バッカスの宮里直樹は、ホールに響き渡る強靭な声。ときに神々しく、圧倒的。森野美咲のツェルビネッタが演技も含めてチャーミング。伸びのある繊細な声で、ホールの響きを活かした歌唱を聴かせる。山下裕賀が若く情熱的な作曲家を見事に演じた。豊かな声で役柄にふさわしい若々しいパワーを表出。ハルレキンの黒田祐貴も演技を含めて好演。そのほか、小森輝彦、池内響、山際きみ佳、隠岐彩夏、小堀勇介、伊藤達人らが〝脇〟を務めるという贅沢な布陣だった。

チャーミングなツェルビネッタを演じた森野美咲(左)と、若く情熱的な作曲家を見事に演じた山下裕賀(右)撮影:日置真光
チャーミングなツェルビネッタを演じた森野美咲(左)と、若く情熱的な作曲家を見事に演じた山下裕賀(右)撮影:日置真光

約600席のよく響く音楽ホールでのオペラの上演には一長一短があるように思われた。「ナクソス島のアリアドネ」は室内オーケストラのために書かれているので、AOIはちょうどよいサイズではあり、オーケストラがピットではなく舞台上で演奏していたので、ハープ、ピアノ、チェレスタ、ハルモニウム、多数の打楽器を用いたシュトラウス独特のオーケストレーションや室内楽的な書法が鮮明に聴こえたのは良かった。そのうえ、水の精、木の精、やまびこの三重唱など、コンサートホールならではの美しい響きを楽しむこともできた。しかし、「序幕(プロローグ)」は芝居的な要素が強く、歌手の発する言葉がいささか響き過ぎているように感じられた。「序幕」と後半の「オペラ」では(邸宅と洞窟という設定の違いもあり)作曲者が書法を変えているので、そのどちらにも適する音場をコンサートホールで作り上げる難しさを感じたし、そのことが興味深くも思われた。

バッカス(宮里直樹、左)とアリアドネ(田崎尚美、右)撮影:日置真光
バッカス(宮里直樹、左)とアリアドネ(田崎尚美、右)撮影:日置真光

沼尻竜典の指揮は、「序幕」の終盤などでの劇的な表現が印象に残ったが、基本的には歌手の良さを引き出し、オーケストラを含め、全体を美しくまとめあげていた。日本での「ナクソス島のアリアドネ」上演史に残る公演といえるに違いない。

(山田治生)

公演データ

静岡音楽館AOI 開館30周年記念
リヒャルト・シュトラウス:歌劇「ナクソス島のアリアドネ」(演奏会形式)

5月11日(日)15:00静岡音楽館AOI

指揮:沼尻竜典
演出:彌六

アリアドネ:田崎尚美(ソプラノ)
バッカス:宮里直樹(テノール)
ツェルビネッタ:森野美咲(ソプラノ)
執事長:小森輝彦(語り)
作曲家:山下裕賀(メゾ・ソプラノ)
音楽教師:池内響(バリトン)
舞踏教師:澤武紀行(テノール)
従僕:岸本大(バス・バリトン)
水の精ナイヤーデ:守谷由香(ソプラノ)
木の精ドリアーデ:山際きみ佳(メゾ・ソプラノ)
やまびこ(エコー):隠岐彩夏(ソプラノ)
ハルレキン:黒田祐貴(バリトン)
ブリゲッラ:小堀勇介(テノール)
士官/道化師スカラムッチョ:伊藤達人(テノール)
かつら師/トゥルファルディン:志村文彦(バス・バリトン)

管弦楽:静岡祝祭管弦楽団
コンサートマスター:水谷晃

プログラム
リヒャルト・シュトラウス:歌劇「ナクソス島のアリアドネ」Op.60(改訂版、全2幕)
演奏会形式 原語上演 字幕付

Picture of 山田 治生
山田 治生

やまだ・はるお

音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

連載記事 

新着記事 

SHARE :