佐渡裕指揮 兵庫芸術文化センター管弦楽団 第156回定期演奏会

みんなの未来を応援する三三七拍子で会場がひとつに!マーラー8番「千人の交響曲」 では圧倒的なヒューマンパワーで感動を巻き起こす

阪神・淡路大震災30年及び、復興のシンボルである兵庫県立芸術文化センター開館20周年を記念して、兵庫芸術文化センター管弦楽団(PACオケ)がマーラーの交響曲第8番「千人の交響曲」を上演した。指揮は芸術監督の佐渡裕。

佐渡裕指揮、兵庫芸術文化センター管弦楽団第156回定期は、阪神・淡路大震災30年、兵庫県立芸術文化センター開館20周年を記念する演奏会となった※写真は17日の同内容公演のもの©飯島 隆
佐渡裕指揮、兵庫芸術文化センター管弦楽団第156回定期は、阪神・淡路大震災30年、兵庫県立芸術文化センター開館20周年を記念する演奏会となった※写真は17日の同内容公演のもの©飯島 隆

マーラーに先立って、まず、阪神・淡路大震災30年メモリアル委嘱新作として大友良英(江藤直子、加藤みちあき、荻原和音編曲)「そらとみらいと」が演奏された。全体は20分程で3つの部分に分かれる。Part1は「レクイエム」。静寂のなか、劇場内の四方からアンティークシンバルがおりんのように聞こえてくる。弦楽器が入り、管楽器が加わり、優しく美しい音楽を奏でる。Part2「ライフ」は全員の即興演奏からなる。指揮者は合図を示すだけ。大友の代表作ともいえる「あまちゃん」の音楽のリズムも聞こえてくる。Part3は「祭りと空と」。祭囃子が奏でられ、そのあと、弦楽器がわくわくするような旋律を歌い、高揚。最後に聴衆の手拍子も加わり、それがいつのまにか三三七拍子になっている。まさにみんなの未来を応援する大友流の三三七拍子だった。

大友良英「そらとみらいと」(委嘱新作)では、会場が大いに盛り上がった※写真は17日の同内容公演のもの©飯島 隆
大友良英「そらとみらいと」(委嘱新作)では、会場が大いに盛り上がった※写真は17日の同内容公演のもの©飯島 隆

マーラーの交響曲第8番では、約300名の合唱、100名超のオーケストラが舞台に乗り、とにかく、彼らの発するヒューマンパワーに圧倒された。児童合唱は暗譜で好演。コンサートマスターの豊嶋泰嗣が見事なリード。オーボエの𠮷村結実(N響)やトランペットのオッタビアーノ・クリストーフォリ(日本フィル)ら、各地で活躍するPACオケの〝卒業生〟も多数参加した(PACオケはアカデミー機能を有し、メンバーの在籍期間は最長3年)。

独唱陣にはこれまで佐渡裕芸術監督プロデュースオペラで活躍してきた歌手が起用された。独唱者たちがオーケストラの前で歌ったのはバランス的に良い判断だった。
佐渡は、推進力のある良いテンポ。演奏に多少の瑕疵もあったが、それは些細な問題でしかなく、第1部はあっという間に終わったように感じられた。第2部も停滞せず進む。そして最後の「神秘の合唱」はじっくりと描かれ、感動的に締め括られた。
アンコールとして大友作品のPart3を再演。今度は合唱団の手拍子も加わり、一層盛り上がる。この劇場での20年間の蓄積の成果を顕著に示し、未来につなぐ演奏会であった。(山田治生)

感動的に締め括られたマーラーの交響曲第8番※写真は17日の同内容公演のもの©飯島 隆
感動的に締め括られたマーラーの交響曲第8番※写真は17日の同内容公演のもの©飯島 隆

公演データ

兵庫芸術文化センター管弦楽団 第156回定期演奏会

1月19日(日)15:00兵庫県立芸術文化センター KOBELCO 大ホール

指揮・芸術監督:佐渡 裕
ソプラノⅠ:並河 寿美
ソプラノⅡ:小林 沙羅
ソプラノⅢ:小川 里美
アルトⅠ:清水 華澄
アルトⅡ:林 美智子
テノール:小原 啓楼
バリトン:キュウ・ウォン・ハン
バス:妻屋 秀和
合唱指揮:矢澤 定明
合唱:マーラー「千人の交響曲」合唱団
管弦楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団

プログラム
大友良英(江藤直子、加藤みちあき、荻原和音編曲): そらとみらいと~阪神・淡路大震災30年メモリアル委嘱作品

マーラー:交響曲 第8番 変ホ長調「千人の交響曲」

アンコール
大友良英(江藤直子、加藤みちあき、荻原和音編曲):そらとみらいと~阪神・淡路大震災30年メモリアル委嘱作品より第3部「祭りと空と」

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山田 治生

やまだ・はるお

音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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