アンドレアス・シュタイアー プロジェクト 13 アンドレアス・シュタイアー(フォルテピアノ)&ダニエル・ゼペック(ヴァイオリン)

日本初披露のデュオによる絶妙な語らい。巧妙なプログラムでヴァイオリン・ソナタの変遷をたどる充実の演奏会

バロックからモダンまで幅広い鍵盤楽器を弾きこなすアンドレアス・シュタイアーとのプロジェクトに、トッパンホールは2006年から取り組む。13回目は、ドイツ・カンマーフィルのコンサートマスターなどで知られるダニエル・ゼペックとのデュオ。チェロ奏者のけがで、トリオの予定が1人減ったが、そこはピリオド楽器の達人のこと、みごと日本初披露のコンビを成功させた。

アンドレアス・シュタイアー(フォルテピアノ) (c)Josep_Molina
アンドレアス・シュタイアー(フォルテピアノ) (c)Josep_Molina
ダニエル・ゼペック(ヴァイオリン) (c)Julia_Baier
ダニエル・ゼペック(ヴァイオリン) (c)Julia_Baier

急きょ変更されたプログラムが巧妙だ。古典派の中で、ヴァイオリン・ソナタの在り方がピアノ中心から両奏者対等へ変容していく過程をトレース。1820年製のフォルテピアノ、ヨハン・ゲオルク・グレーバーによるオリジナル・モデルの音色と機能を満喫させた。
冒頭に置かれたモーツァルトのソナタK379で、その狙いは明確になった。ウィーン式アクションを持つ同機は音量に制約があるものの、マイルドな深みをもつ奥ゆかしい音色が格別。ガット弦のくすんだ輝きの明滅とのマッチングが絶妙だ。長さが短めのクラシカルな弓で臨んだゼペックは、安定した技巧で精緻な強弱や整った語らいを展開。同ホールの親密な空間が大きな助けとなった。

ハイドンのピアノ・ソナタ第49番変ホ長調で、シュタイアーは楽器の魅力を実演してみせた。5本の足ペダルを駆使して音色変化の妙を強調し、多彩な表情を表出。前半を締めくくるモーツァルトのヴァイオリン・ソナタで唯一の短調作品K304でも、第2楽章の終わりで一瞬、長調に転じる部分で、音色を柔らかくするモデレート・ペダルを効果的に使い、哀しみと慰めをじっくり印象づけた。

後半でゼペックは、時代を下った長めの弓に持ち替えた。奏者2人が対等にわたり合う転換点とされるベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第4番では、作風の進化を実感させる緊張感に富んだ協奏で引き付けた。この会場で聴く、この顔合わせならではのぜいたくさに、改めて感じ入った。
(深瀬 満)

公演データ

アンドレアス・シュタイアー プロジェクト 13
アンドレアス・シュタイアー(フォルテピアノ)&ダニエル・ゼペック(ヴァイオリン)

10月26日(土)15:00トッパンホール

フォルテピアノ:アンドレアス・シュタイアー
ヴァイオリン:ダニエル・ゼペック

プログラム
モーツァルト:フォルテピアノとヴァイオリンのためのソナタ ト長調K379(373a)
ハイドン:フォルテピアノのためのソナタ 変ホ長調Hob.XVI-49
モーツァルト:フォルテピアノとヴァイオリンのためのソナタ ホ短調K304(300c)
モーツァルト:「ああ、私は恋人を失った」の主題による6つの変奏曲 ト短調K360(374b)
ベートーヴェン:フォルテピアノとヴァイオリンのためのソナタ第4番 イ短調Op.23

アンコール
モーツァルト:フォルテピアノとヴァイオリンのためのソナタ 変ホ長調K380(374f)より 第2楽章 Andante con moto

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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