上岡敏之指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団 すみだクラシックへの扉 ♯26

最新のピリオド奏法のスタイルを取り入れながらも優美な演奏に仕上げた上岡敏之の手腕が光ったモーツァルトの後期三大交響曲

前音楽監督・上岡敏之指揮による新日本フィルのモーツァルト後期三大交響曲。作曲家在世当時の楽器や奏法を再現するピリオド(時代)のスタイルが広く浸透し演奏方法が多様化した現代において、モダン・オケが古典派作品にいかに取り組むのか、指揮者のセンスが問われるテーマといえる。取材は26日、2回目の公演。

モーツァルトの後期三大交響曲を取り上げた前音楽監督で指揮者の上岡敏之 ※写真は10月25日(金)の同内容公演より ©堀田力丸
モーツァルトの後期三大交響曲を取り上げた前音楽監督で指揮者の上岡敏之 ※写真は10月25日(金)の同内容公演より ©堀田力丸

弦楽器の編成は第1ヴァイオリンから12・10・8・6・5で、管楽器は譜面の指定通り。ティンパニは口径が小さい手締め式。コントラバスが通常の12型よりも1人多い5人というところに上岡の狙いが見て取れる。弦楽器は完全ノーヴィブラート。

第39番の序奏部は速めのテンポでヴァイオリンの32分音符による下降音型を弧を描くようにつなげていく。弦楽器のヴィブラートをかけないと多くの場合、シャープなサウンドが鳴るが、丸みのある温かい響きに驚かされる。第1主題のアーティキュレーション(音のつなげ方)が大幅に見直されていたのが新鮮に感じられた。この日は全般にわたって同様の見直しが行われ、随所に前述のような新鮮さが印象に残った。第3楽章メヌエットの中間部の繰り返しも2度目は音量をグンと落としてニュアンスに変化をもたらしていた。第1、第4楽章の繰り返しは提示部のみ。古楽演奏の場合、展開部以降も繰り返すこともあるが、そうすると全体に長くなり過ぎるように感じるので、上岡のやり方に賛成。

随所に表現の見直しが行われ、新鮮さが印象に残った ※写真は10月25日(金)の同内容公演より ©堀田力丸
随所に表現の見直しが行われ、新鮮さが印象に残った ※写真は10月25日(金)の同内容公演より ©堀田力丸

第40番もアーティキュレーションの見直しが面白く、特にスラー(音と音の間をつなげる)を多用し、時折、内声部のホルンを強調していたことも大きな効果を発揮していた。

第41 番はバスを1本増強した狙いが顕著に表れていた。厚みのある低音をベースにアンサンブルが活発に展開。第2楽章はコンソルディーノ(弱音器付)のヴァイオリンを厚い低弦が支えて優美な響きを創出。第4楽章はティンパニを際立たせてフーガの構造に輪郭をもたらすようにして、壮大なフィナーレを築いた。ピリオドの要素をふんだんに取り入れながらも従来のモーツァルトのイメージも大切にした上岡流は、現代オケの古典派演奏のひとつのお手本といえる秀演であった。
(宮嶋 極)

公演データ

新日本フィルハーモニー交響楽団 すみだクラシックへの扉 #26

10月25日(金)14:00、 26日(土)14:00 すみだトリフォニーホール

指揮:上岡 敏之
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:崔 文洙(チェ・ムンス)

プログラム
モーツァルト:交響曲第39番変ホ長調K.543
モーツァルト:交響曲第40番ト短調K.550
モーツァルト:交響曲第41番ハ長調K.551「ジュピター」

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宮嶋 極

みやじま・きわみ

放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。

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