セミヨン・ビシュコフ指揮 チェコ・フィル 日本公演

東欧の名門チェコ・フィルハーモニー管弦楽団が、首席指揮者兼音楽監督のセミヨン・ビシュコフとともに来日し、オール・ドヴォルザーク・プロで日本の聴衆を魅了した。取材したのは11月1日、サントリーホールにおける公演。

 

1曲目の序曲「自然の中で」からチェコ・フィルならではのキメが細かく美しいサウンドが全開となる。それはウィーン・フィルみたいな華やかな響きではなく、少しくすんだような落ち着いた雰囲気をたたえたものである。筆者がこのオケを初めて聴いたのは大学生だった1982年のこと。指揮はヴァーツラフ・ノイマン。このオケのサウンドは基本的にはその頃とあまり変わっていないように感じる。音楽の世界でもグローバル化が進んでいるが、メンバー表を見ると外国人とおぼしき名前はわずかしかいない。チェコ・フィルは自分たちの伝統的な音作りを今も守り続けていることが、こうした点にもうかがえた。

セミヨン・ビシュコフ 写真提供=ジャパン・アーツ
セミヨン・ビシュコフ 写真提供=ジャパン・アーツ

2曲目はギル・シャハムをソリストにヴァイオリン協奏曲。少しくすんだようなオケの響きがシャハムの明るく伸びやかな音色を一層際立たせる効果を生む。のどかで穏やかな曲想の魅力が存分に引き出され、聴く者をゆったりとした気持ちにさせる。シャハムはコンマスらとアイコンタクトを取りながら、時折笑顔を浮かべて楽しそうに弾いていた。

楽しみながら伸びやかな演奏を披露したギル・シャハム 写真提供=ジャパン・アーツ
楽しみながら伸びやかな演奏を披露したギル・シャハム 写真提供=ジャパン・アーツ

メインの新世界交響曲は〝本家本元〟の矜持(きょうじ)を示すかのように伝統に根差した端正な音楽作りがなされていた。奇をてらった解釈や斬新なアプローチは一切なく、誰もが昔から聴き慣れた「新世界」がそこにはあった。全曲最後の和音をかなり長く伸ばしたことが、唯一〝スタンダード〟とは異なっていた。そこには作品とこのオケのサウンドを慈しむようなビシュコフの気持ちが反映しているようにも思えた。

シャハムをソリストに迎えてのドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲の演奏風景。チェコの伝統に立脚したサウンドが全開となった。写真提供=ジャパン・アーツ
シャハムをソリストに迎えてのドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲の演奏風景。チェコの伝統に立脚したサウンドが全開となった。写真提供=ジャパン・アーツ

アンコールはスラブ舞曲第2番とブラームスのハンガリー舞曲第5番の2曲。両曲とも現代的なシャープなスタイルではなく、どこか懐かしさを覚える温かみのある演奏であった。オケが退場しても盛大な喝采が鳴りやまず、ビシュコフが舞台に再登場し歓呼に応えていた。
(宮嶋 極)

公演データ

【チェコ・フィルハーモニー管弦楽団東京公演】

10月29日(日)14:00、31日(火)19:00 11月1日(水)19:00
サントリーホール

11月4日(土)14:00 横浜みなとみらいホール

指揮:セミヨン・ビシュコフ
チェロ:パブロ・フェランデス(29日)
ピアノ:藤田 真央(31日)
ヴァイオリン:ギル・シャハム(1日)

◆10月29日
ドヴォルザーク:序曲「オテロ」Op.93
ドヴォルザーク:チェロ協奏曲ロ短調Op.104
ドヴォルザーク:交響曲第8番ト長調Op.88

◆31日
ドヴォルザーク:序曲「謝肉祭」Op.92
ドヴォルザーク:ピアノ協奏曲ト短調Op.33
ドヴォルザーク:交響曲第7番ニ短調Op.70

◆11月1日
ドヴォルザーク:序曲「自然の中で」Op.91
ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲イ短調Op.53
ドヴォルザーク:交響曲第9番ホ短調Op.95「新世界より」

◆1日のアンコール
ウィーラー:アイソレーション・ラグ(ヴァイオリン)
ドヴォルザーク:スラブ舞曲第2番 ホ短調(オーケストラ)
ブラームス:ハンガリー舞曲第5番 ト短調(オーケストラ)

◆4日
ドヴォルザーク:交響曲第8番ト長調Op.88
ドヴォルザーク:交響曲第9番ホ短調Op.95「新世界より」

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宮嶋 極

みやじま・きわみ

放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。

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