ドイツの歌劇場オーケストラを思わせるフィジカルな愉悦とダイナミズムに満ちた秀演
読響の9月のマチネーシリーズは、常任指揮者ヴァイグレによる「ばらの騎士」組曲とコルンゴルトのチェロ協奏曲をメインとしたハイセンスなプログラム。
1曲目はウェーバーの歌劇「オベロン」序曲、中身のしっかり詰まった冒頭のホルンで一気にドイツ・ロマン派の世界に誘われる。腰の据わった弦の重厚なサウンドや密度の濃い歌い込み、骨太で明快な音楽はヴァイグレならでは。
ここでフランスのモローをソリストに迎えた「コル・ニドライ」とコルンゴルトの協奏曲。序奏に続いてモローが主題を弾き始めると、あたりが清澄な空気に包まれる。それほどまでに彼のチェロは音色の純度が高く表現に無駄がない。
コルンゴルトの協奏曲然り。技術的な安定感が抜群で表現は知的に抑制され、洗練されている。テンションの高い第1主題と穏やかな第2主題の対比、憧れに満ちた中間部が印象的で最後のカデンツァを含めて、気鋭のソリストをライヴで聴けたことは収穫だった。アンコールのバッハの「無伴奏チェロ組曲」第3番サラバンドはモダンなスタイル。響きを確かめるかのように遅いテンポで朗々と美音を響かせた。
コルンゴルトの「シュトラウシアーナ」はヨハン・シュトラウス2世の舞曲をコルンゴルト流にモダンで洒脱な色彩に染め上げた佳作。各楽章の舞曲や性格がはっきり示される。とりわけ第3楽章ワルツのボディを感じさせる厚いサウンドと艶のある歌い回し、ダイナミックな表現が楽しい。
「ばらの騎士」もさらさら流れてしまうことなく、緩急のメリハリを大きく採って各場面をとことん味わわせてくれるし、前半のオクタヴィアンの到着場面や後半の恋人たちの二重唱などクライマックスの築き方が巧み。ヴァイグレの落ち着いた伸びやかな棒のもとで読響の実力が大いに発揮され、とりわけ当シリーズで最後となるコンサートマスター長原幸太率いる弦の気持ちの入った歌い込みがすばらしい。総じてドイツの歌劇場オーケストラを彷彿とさせるフィジカルな愉悦とダイナミズムに満ちた秀演だった。
(那須田 務)
公演データ
読売日本交響楽団 第270回土曜マチネーシリーズ
9月28日(土)14:00東京芸術劇場
指揮:セバスティアン・ヴァイグレ
チェロ:エドガー・モロー
管弦楽:読売日本交響楽団
プログラム
ウェーバー:歌劇「オベロン」序曲
ブルッフ:コル・ニドライ Op.47
コルンゴルト:チェロ協奏曲 ハ長調Op.37、「シュトラウシアーナ」
R.シュトラウス:歌劇「ばらの騎士」組曲
ソリスト・アンコール
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第3番BWV1009から「サラバンド」
なすだ・つとむ
音楽評論家。ドイツ・ケルン大学修士(M.A.)。89年から執筆活動を始める。現在『音楽の友』の演奏会批評を担当。ジャンルは古楽を始めとしてクラシック全般。近著に「古楽夜話」(音楽之友社)、「教会暦で楽しむバッハの教会カンタータ」(春秋社)等。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン理事。