バーチャルピアニストがオーケストラと共演!新感覚を提供した愉(たの)しきフィナーレ
サマーミューザの最後を飾る原田慶太楼指揮/東京交響楽団の公演は、ムソルグスキー「禿山の一夜」、吉松隆「アトム・ハーツ・クラブ組曲第2番」、伊福部昭「ヴァイオリンと管絃楽のための協奏風狂詩曲」(独奏:川久保賜紀)、デュカス「魔法使いの弟子」、ガーシュウィン「ラプソディー・イン・ブルー」が並ぶ一見多彩なプログラム。だが、ディズニー映画「ファンタジア」絡みの3曲に、「鉄腕アトム」「ゴジラ」の旋律が現れる邦人2曲を加えた〝映像繋がり〟の選曲で、「ラプソディー〜」では潤音(うるね)ノクトなるバーチャルアーティストがピアノ独奏を務めるという、興味津々の内容だ。
当欄は「6~800字の簡便なリポート」が趣旨なので極力簡潔に記すと、まず前後半最初の「禿山の一夜」と「魔法使いの弟子」は、精妙な音作りがなされながら、クライマックスでは打楽器を強調して迫力十分に畳み込まれる、静と動の対比が鮮やかな演奏。これは本日全体の特徴でもある。
弦のみの吉松作品は、ヴァイオリンとヴィオラが立奏して豊潤かつシャープな合奏を展開。伊福部作品は、川久保の繊細なソロを含めて、土俗性よりもモダンなテイストが濃く表出される。これは伊福部の普遍性を浮き彫りにした清新な表現だ。
「ラプソディー〜」は、オーディションを経たピアニスト(正体は謎)が別室で演奏。会場にはその姿がアニメ化された映像で流され、オケがそれに合わせるという形だった。概ねジャズ寄りのピアノは的確な独奏を続けて精彩に富んだアドリブも披露。細やかなオケ共々シンフォニックジャズ特有の愉悦感が耳を弾ませた。ただし当然ピアノは電気的な増幅音。その強奏が好悪を分ける半面、普段オケに隠れがちなフレーズも明確に聴こえるメリットをもたらした。
東響はファゴットやクラリネットをはじめ雄弁な好演。そして〝お決まり〟を排する原田の創意が新感覚を提供した愉(たの)しきフィナーレとなった。
(柴田克彦)
公演データ
東京交響楽団 フェスタサマーミューザ KAWASAKI2024 フィナーレコンサート
8月12日(月)15:00ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:原田慶太楼(東京交響楽団 正指揮者)
ヴァイオリン:川久保賜紀
ピアノ:潤音ノクト(バーチャルアーティスト)
プログラム
ムソルグスキー(リムスキー=コルサコフ編):交響詩「禿山の一夜」
吉松 隆:アトム・ハーツ・クラブ組曲第2番 Op.79a
Ⅰ Pizzicato Steps Ⅱ Aggressive Rocks Ⅲ Brothers Blues Ⅳ Rag Super Light
Ⅴ Mr.G Returns Ⅵ Atomic Boogie
伊福部 昭:ヴァイオリンと管絃楽のための協奏風狂詩曲
第1楽章 アダージョ ― アレグロ 第2楽章 ヴィヴァーチェ・スピリトゥオーソ
デュカス:交響詩「魔法使いの弟子」
【Discover the Future】
ガーシュウィン:ラプソディー・イン・ブルー
アンコール
山本直純:好きです かわさき 愛の街
しばた・かつひこ
音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。