ペトル・ポペルカ指揮 プラハ放送交響楽団 東京公演

旋律を深く、美しく歌い上げる新鋭ペトル・ポペルカの手腕が全開となった東京公演

チェコの新鋭ペトル・ポペルカが首席指揮者兼芸術監督を務めるプラハ放送交響楽団を率いて来日、東京公演初日を聴いた。ポペルカは今年38歳、指揮者としては若手といえる年齢ながら、今秋からウィーン交響楽団の首席指揮者就任も決まっているなど、早くも世界のひのき舞台に躍り出た注目株である。日本へは2022年夏に東京交響楽団を指揮してデビュー。その非凡な才能を発揮して絶賛されたことも記憶に新しい。

チェコの新鋭ペトル・ポペルカ率いるプラハ放送交響楽団
チェコの新鋭ペトル・ポペルカ率いるプラハ放送交響楽団

1曲目はスメタナの「わが祖国」から〝モルダウ〟。最近多い各パートの音量バランスを細かく調整しながら全体の響きを整えていくスタイルとは一線を画し、主旋律をじっくりと掘り下げて歌い上げていく。トランペットをはじめとする金管楽器を時に強く吹かせて突出させ、旋律線をクッキリと浮かび上がらせていく。

 

2曲目は三浦文彰をソリストにドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲。豊かな音量で朗々と鳴る三浦のヴァイオリンをポペルカとプラハ放送響は終始温かみのあるサウンドで支え、ボヘミアののどかな自然を感じさせるような雰囲気を醸成していった。

ソリストの三浦文彰 (c) Yuji Hori
ソリストの三浦文彰 (c) Yuji Hori

メインもドヴォルザークで新世界交響曲。前半と同様にこの作品の名旋律の数々を深い呼吸感をもって紡ぎながら端正に全体像を描き出していく。その端正な佇(たたず)まいは新世界交響曲をどう演奏すべきかのお手本のようにすら感じられた。何より印象的だったのはオケのメンバーが実に楽しそうにポペルカの示す音楽に共感し熱演を繰り広げていたことである。自分が目指す音楽を楽員に理解、共感させて演奏させることができる能力は指揮者にとって大切な要件のひとつであり、ポペルカは自然にそれを習得し、実践しているように映った。

 

盛大な喝采に応えてドヴォルザークのスラヴ舞曲第10番、ブラームスのハンガリー舞曲第6番をアンコール。少しリラックスしたアンコールではポペルカの特質が一層顕著に表われ、旋律処理の巧みさなど非凡な才能がさらに際立って聴き取ることができた。13日にも東京オペラシティで公演が行われるほか、来年2月にはポペルカのN響定期への初客演も予定されている。

(宮嶋極)

公演データ

ペトル・ポペルカ指揮 プラハ放送交響楽団 東京公演

7月11日(木)19:00 サントリーホール

指揮:ペトル・ポペルカ
ヴァイオリン:三浦文彰
管弦楽:プラハ放送交響楽団

スメタナ:連作交響詩「わが祖国」より〝モルダウ〟
ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲イ短調Op.53
ドヴォルザーク:交響曲第9番ホ短調Op. 95「新世界より」

アンコール
ドヴォルザーク:スラヴ舞曲第10番 Op. 72-2
ブラームス:ハンガリー舞曲第6番 変ニ長調

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宮嶋 極

みやじま・きわみ

放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。

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