オラモが東響を完全に掌握! 初共演にして目の覚めるような名演を披露
フィンランドの指揮者サカリ・オラモが東京交響楽団と初共演、母国の作曲家ラウタヴァーラ、サーリアホ、シベリウスの作品と、ドヴォルザークの田園交響曲と呼ばれる交響曲第8番で目の覚めるような名演を聴かせた。
ラウタヴァーラ「カントゥス・アルクティクス (鳥とオーケストラのための協奏曲)」は作曲家自身がフィンランド北部の湿地帯で録音した鳥の声とオーケストラが対話する3楽章の協奏曲。フィンランドの国鳥オオハクチョウの大群の声とオーケストラが一体となる第3楽章「渡る白鳥」のクライマックスは、越冬のために一斉に飛び立つ白鳥たちが目の前に浮かび上がるようで圧倒された。
2曲目は、昨年亡くなったサーリアホの「サーリコスキ歌曲集」(日本初演)。フィンランドの詩人サーリコスキの詩に魅せられたソプラノ、アヌ・コムシがサーリアホに作曲を提案した。コムシはこの世のものとは思えない超高音を自在に駆使、人間と自然を鋭く描写した詩を時に繊細に、時に激しく歌い上げた。
後半最初はシベリウスが自身の最良の作品の一つと語った傑作、交響詩「ルオンノタル」。フィンランドの民族的叙事詩カレヴァラ(カレワラ)に登場する水の精ルオンノタルの天地創造の物語をコムシは冬空を切り裂くようなドラマティックな高音で歌った。
両曲とも、ピッコロやトランペット、ヴァイオリンにも例えられるコムシの声がオラモ東響の演奏に溶け込み、襟を正したくなるような神秘的な世界が生まれていた。
ドヴォルザーク「交響曲第8番」ではオラモが東響を完全に掌握、オーケストラを遥かな高みに導く。弦の音は切ったばかりの木目のように鮮やかになり、木管は歌い躍動し、金管は芯のしっかりとした輝かしい響きに変わる。生命力と覇気に満ち、高貴な品格も加わった演奏に聴衆は熱狂、楽員たちもオラモの指揮に魅了されたように見えた。オラモと東響の再共演を強く望みたい。
(長谷川京介)
公演データ
東京交響楽団第719回 定期演奏会
2024年4月20日(土)18:00 サントリーホール
指揮:サカリ・オラモ
ソプラノ:アヌ・コムシ
管弦楽:東京交響楽団
プログラム:
ラウタヴァーラ: カントゥス・アルクティクス (鳥とオーケストラのための協奏曲) Op.61
サーリアホ:サーリコスキ歌曲集(管弦楽版)[日本初演]
シベリウス:交響詩「ルオンノタル 」Op.70
ドヴォルザーク:交響曲 第8番 ト長調 Op.88
はせがわ・きょうすけ
ソニー・ミュージックのプロデューサーとして、クラシックを中心に多ジャンルにわたるCDの企画・編成を担当。退職後は音楽評論家として、雑誌「音楽の友」「ぶらあぼ」などにコンサート評や記事を書くとともに、プログラムやCDの解説を執筆。ブログ「ベイのコンサート日記」でも知られる。