テンポは速いが、とことん聴かせるミンコフスキのベートーヴェン
オーケストラ・アンサンブル金沢が桂冠指揮者ミンコフスキとともに東京にやってきた。開演前に音楽監督の広上淳一とゼネラルマネージャーが挨拶。同団は創設時から災害時に被災者に寄り添う活動をしてきた。今回の能登半島地震も同様。「気持ちの入った演奏を楽しんで」と語った。
「田園」の第1楽章。主題を奏でるヴァイオリンは明るいまろやかな音色でリズムに愉悦がある。ほどよく制御されたヴィブラートで響きは透明。明快なアーティキュレーションと柔軟な歌い回し、ノリのよいテンポが生き生きとした感情を伝える。第2楽章の「歌」には気品がありエレガント、木管の鳥たちの囀(さえず)りなど随処に繊細な表現が光る。第3楽章以後は緊迫感に満ち、中間部は猛烈な速さ。様々な音型の特徴が巧みに表現されて戯画的な面白さ。嵐の予兆のような第4楽章冒頭のコントラバスの暗い最弱音、そこに落下する雷鳴の強烈な一撃に手締めのティンパニの硬い音が生きる。怒涛(どとう)の嵐が過ぎ去った後の穏やかな平和讃歌が快い。
休憩後は「運命」。ミンコフスキは舞台を歩きながら客席に微(ほほ)笑みかけ、オーケストラに振り向きざま腕を振り下ろす。冒頭から一貫して高いテンションを維持したまま、快速テンポでリズムに弾力性があり、フォルテは重厚。再現部オーボエ独奏の、台風の目のような静けさが印象的。緩徐楽章もテンポは速めだが、弦の歌い込みがすばらしい。第3楽章は強弱やアーティキュレーションがこれ以上ないほど明確で、終楽章へのクレッシェンドが鮮やか。凄(すさ)まじい音量と超快速で勝利の凱歌(がいか)を歌い上げた。ミンコフスキが能登半島地震の犠牲者と故小澤征爾氏のためにと述べて演奏されたアンコールは、所々バロックの流儀を感じさせると同時に弦の心の籠(こ)もった温かな歌が感動的だった。
(那須田務)
公演データ
オーケストラ・アンサンブル金沢第40回東京定期公演
2024年3月18日(月)18:30 サントリーホール
指揮:マルク・ミンコフスキ
管弦楽:オーケストラ・アンサンブル金沢
プログラム
ベートーヴェン:
交響曲第6番へ長調Op.68「田園」
同第5番ハ短調Op.67「運命」
アンコール
J.S.バッハ:アリア(管弦楽組曲第3番より)
なすだ・つとむ
音楽評論家。ドイツ・ケルン大学修士(M.A.)。89年から執筆活動を始める。現在『音楽の友』の演奏会批評を担当。ジャンルは古楽を始めとしてクラシック全般。近著に「古楽夜話」(音楽之友社)、「教会暦で楽しむバッハの教会カンタータ」(春秋社)等。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン理事。