清水和音×三浦文彰 
ベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会Ⅰ 

三浦の濃厚なヴァイオリンと格調高く優美な清水のピアニズムが好対照

人気ヴァイオリニストの地位を確立して久しい三浦文彰は30歳。デビュー15周年を絡めた一大プロジェクトとして、新たにベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会を開始した。共演の相手は、心強い先達の雰囲気を漂わせる清水和音。すでに二人で全曲録音も終えたといい、清水への信頼は厚い。

ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲演奏という一大プロジェクトに挑む三浦
ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲演奏という一大プロジェクトに挑む三浦

ツィクルス初回は第1、2、4、5番と、初期から「春」までの4作品を取り上げた。ベートーヴェンの初期作は、ヴァイオリンの助奏を伴ったピアノフォルテのためのソナタ、という古風な流儀通りなのは、よく知られたところ。

まずはピアノが前面に出てくるのかと思いきや、演奏会前半の第1、2番で存在感を主張したのはヴァイオリンの三浦の方だった。新しく愛器となった貴重なグァルネリ・デル・ジェス「カストン」の濃厚な音色を武器に、ヴィブラートをしっかり掛け、豊かな音量で悠然と構える往年の巨匠風の演奏。大会場を意識してのアプローチということもあろう。

これに対し清水は、抑制の利いた古典的な格調を旨とし、力みのない軽妙で優美な世界を作り上げた。ヴァイオリンを引き立てつつ、様式感を踏まえた円熟のピアニズムが光る。

ソナタの歴史を変えた第4、5番

後半の第4番、第5番「春」は2曲セットで構想され、ヴァイオリンとピアノの関係が対等になって、ソナタの歴史を変えた。ここで変貌したのはピアノの清水だった。にわかに雄弁になり、書法の充実や曲想に即した緊張感を明確に表すとともに、緩徐楽章ではデリケートな詩情を紡ぎ出す。終始、自分のスタイルを貫いた三浦とは好対照だった。

円熟のピアニズムが光る清水
円熟のピアニズムが光る清水

アンコールはシューベルトのソナチネ第1番から終楽章。これで清水が周到に仕込んだ設計図が明らかになった。ツィクルスの次回は7月15日の予定。

(深瀬満)

公演データ

清水和音×三浦文彰 ベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会Ⅰ

2024年2月12日(月)14:00 サントリーホール 大ホール

ヴァイオリン:三浦文彰
ピアノ:清水和音

プログラム
ベートーヴェン:
ヴァイオリン・ソナタ
第1番 ニ長調 Op.12-1
第2番 イ長調Op.12-2
第4番 イ短調Op.23
第5番 ヘ長調 Op.24「春」

アンコール
シューベルト:ソナチネ第1番Op.137-1第3楽章

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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