トゥガン・ソヒエフ指揮 NHK交響楽団第2002回定期公演Cプログラム

細部にまで指揮者の意思が浸透した精密なプログラムで独自のN響サウンドを引き出す

NHK交響楽団の1月定期は昨年秋、ウィーン・フィルとの来日公演でも注目を集めたトゥガン・ソヒエフがABCすべてのプログラムを指揮した。ソヒエフはこのところ毎年N響の指揮台に立ち、さながら首席客演指揮者のような役割を果たしている。それだけに両者の信頼関係はますます揺るぎないものになっていることがこの日の演奏からも伝わってきた。

N響1月定期のABCすべてのプログラムを指揮したソヒエフ 写真提供:NHK交響楽団
N響1月定期のABCすべてのプログラムを指揮したソヒエフ 写真提供:NHK交響楽団

取材したCプロ初日(19日、NHKホール)はリャードフの交響詩「キキモラ」とプロコフィエフ(ソヒエフ編)のバレエ組曲「ロメオとジュリエット」のロシア演目。細部にまでソヒエフの意思が浸透していることが分かる精密な組み立てがなされていた。ソヒエフは前週A定期のダンス・プロ(ビゼー・シチェドリン編:バレエ音楽〝カルメン組曲〟、ラヴェル〝ラ・ヴァルス〟ほか)の色彩感豊かな音作りと打って変わって、野太く時には荒々しいまでの力強いサウンドをN響から導き出してみせた。1曲目の標題となっているキキモラとはロシア民話から着想された邪神のことだという。冒頭から弦楽器によって暗く神秘的な雰囲気が醸し出され、前週との音色(ねいろ)の違いに思わずハッとさせられる。

指揮者とオーケストラの信頼の厚さを感じさせる演奏を披露した 写真提供:NHK交響楽団
指揮者とオーケストラの信頼の厚さを感じさせる演奏を披露した 写真提供:NHK交響楽団

「ロメオとジュリエット」は指揮者自らが11曲をチョイスし、演奏順を決めた〝ソヒエフ版〟による演奏。「モンタギュー家とキャピュレット家」(組曲2-1)から始まり「タイボルトの死」(組曲1-7)で締めくくられる。曲によってはブラスを強烈に鳴らし、弦楽器の厚い響きがそれを堅固に支えて音楽が進行していくさまは圧巻の迫力であった。コンマスの郷古廉をはじめ弦楽器各パートのトップと木管のソロも雄弁で、大音響が繰り出される曲との間で絶妙なコントラストを描き出していた。ソヒエフはこの2回の演奏会でN響から首席指揮者のファビオ・ルイージとも、同団でタイトルを持つパーヴォ・ヤルヴィ、そしてヘルベルト・ブロムシュテットとも異なる独自のサウンドを引き出していたところに両者の信頼関係の厚さと相性の良さが表れていたように感じた。

(宮嶋極)

公演データ

NHK交響楽団第2002回定期公演Cプログラム

1月19日(金)19:30 NHKホール

指揮:トゥガン・ソヒエフ
コンサートマスター:郷古 廉

リャードフ:交響詩「キキモラ」Op.63
プロコフィエフ(ソヒエフ編):バレエ組曲「ロメオとジュリエット」

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宮嶋 極

みやじま・きわみ

放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。

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