紀尾井レジデント・シリーズ III 第1回 
青木尚佳~ミュンヘン・フィル コンサートマスター就任記念

超絶技巧を感じさせないまでに練り上げたイザイ「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ」

青木尚佳が紀尾井レジデント・シリーズⅢに登場し、その第1回として、イザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ全6曲を演奏した。青木は、2014年のロン=ティボー=クレスパン国際コンクールで第2位に入賞。桐朋学園大学、英国王立音楽院などで学び、ミュンヘン音楽大学でアナ・チュマチェンコに師事。2022年からミュンヘン・フィルのコンサートマスターを務めている。

紀尾井レジデント・シリーズⅢに登場した青木尚佳(C)堀田力丸
紀尾井レジデント・シリーズⅢに登場した青木尚佳(C)堀田力丸

彼女にとっては初めての無伴奏リサイタル。すべての曲を暗譜で弾いた。第1番から、力のバランスが良いのであろう、弓の毛が弦に吸い付くようで、重音が美しく鳴りきり、音程の精度も良い。紀尾井ホールの音響を味方につけ、十分に力強いけれど、力んだ感じはしない。第2番でも「怒りの日」の旋律がバランスよく聴こえる。弱音表現にも優れている。第3番「バラード」が素晴らしい演奏。ヴィブラートの使い方がよく考え抜かれていて、精度も高い。

精度の高い演奏に紀尾井ホールの音響も相まって素晴らしい音を響かせた(C)堀田力丸
精度の高い演奏に紀尾井ホールの音響も相まって素晴らしい音を響かせた(C)堀田力丸

第4番第1楽章ではレガートな表現の巧みさが示され、第2楽章のピッツィカートがホールの音響を生かした美しい響き。そして第3楽章は余裕のある速弾き。第5番は、演奏会前半からの無伴奏の難曲の連続に少し疲れが出たのであろうか、コントロールが完璧とはいえなかったが、音色の多彩さが魅力的だった。そして第6番は、終曲にふさわしい華やかでスケールの大きな演奏で締め括(くく)られた。超絶技巧が並ぶ曲ではあるが、青木はそういう技巧性を感じさせないまでに演奏を練り上げ、外連なく、真摯(しんし)に作品の世界を再現してくれた。
(山田治生)

公演データ

紀尾井レジデント・シリーズ III 第1回
青木尚佳~ミュンヘン・フィル コンサートマスター就任記念

2023年12月21日(木)19:00 紀尾井ホール

青木尚佳(ヴァイオリン)

プログラム
イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ op.27(全曲)
第1番ト短調
第2番イ短調
第3番ニ短調〈バラード〉
第4番ホ短調
第5番ト長調
第6番ホ長調

Picture of 山田 治生
山田 治生

やまだ・はるお

音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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