大阪国際室内楽コンクール2023弦楽四重奏部門第2位
オーケストラでも活躍する4人が誘(いざな)う室内楽の世界
ほのカルテットは2018年に東京藝大在学中の4人で結成された。今年5月に大阪国際室内楽コンクールで第2位に入り、注目を浴びた。日本の団体では1996年のクァルテット・エクセルシオと並ぶ最高位で、昨秋からサントリーホール室内楽アカデミーに籍を置く。
この受賞を記念する当夜は、同コンクール課題曲だったベートーヴェン「弦楽四重奏曲第12番」を核にした構成。曲順が予定と変わり、前半にハイドン、ベートーヴェン、後半にメンデルスゾーンとなった。
ヴァイオリンを対向配置とし、その間に下手側からヴィオラ、チェロと並ぶ形は、かなり珍しい。ヴィブラートをしっかり掛ける伝統的なスタイルで、団体名にもなっている岸本萌乃加(ほのか)の第1ヴァイオリンを他の男性3人が騎士のように支えていく。
ハイドン「弦楽四重奏曲変ホ長調《冗談》」から、アンサンブルは適度な膨らみを帯び、神経質なエッジのないスムーズなハーモニーが展開された。折り目正しい生真面目な性格が表に出て、“規定演技”としての水準は高い。
同じ調性もあってか前半に移動したベートーヴェンの「第12番」は、深遠な晩年様式ゆえ俄然(がぜん)ハードルが高くなる。合奏自体は淀みない流れを保つが、15分を超える長大な第2楽章では、各変奏の性格分けや細部の彫琢(ちょうたく)に伸びしろを残した。第3、4楽章では躍動的な推進力が快適。周到なユーモアが浮かぶと、さらに作品への近さが増すだろう。
結局、最もマッチしていたのはトークの後で披露されたメンデルスゾーンの「第4番」だった。哀感を熱っぽく浮かび上がらせた両端楽章など、流麗なロマンチシズムを的確に引き出した。オーケストラなどでも活動する4人、室内楽の森へさらに深く分け入ってほしい。
(深瀬満)
公演データ
サントリーホール室内楽アカデミー特別公演 大阪国際室内楽コンクール2023弦楽四重奏部門第2位記念
ほのカルテット リサイタル
2023年12月19日(火) 19:00サントリーホール ブルーローズ
弦楽四重奏:ほのカルテット *サントリーホール室内楽アカデミー第7期
ヴァイオリン:岸本萌乃加
ヴァイオリン:林周雅
ヴィオラ:長田健志
チェロ:蟹江慶行
プログラム
ハイドン:弦楽四重奏曲 変ホ長調 Hob. Ⅲ:38 「冗談」
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第12番 変ホ長調 作品127
メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲第4番 ホ短調 作品44-2
アンコール
エベーヌ弦楽四重奏団編曲:映画『パルプ・フィクション』より「Misirlou」
三木たかし(多井千洋編曲):「津軽海峡・冬景色」
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。