若手奏者に飛躍のチャンス
二人の未来の巨匠がバッティストーニ、東京フィルと共演
東急文化村が若い才能を支援する「未来の巨匠コンサート」を23年ぶりに復活させた。今後は「育成」にも注力するそうで、新装の初回は二人の若手奏者がオーチャードホールの舞台に立った。しかもバックは同ホールと関係が深い東京フィルに、その首席指揮者アンドレア・バッティストーニという豪華さ。二人には貴重な機会が与えられ、聴衆には指揮者の自作初演というプレゼントがあった。
ヴァイオリンの村田夏帆は2007年茨城県生まれ、東京音楽大学付属高校1年に特別特待奨学生として在学中。海外のジュニア国際コンクールで優勝するなど、頭角を現している。この日はシベリウスのヴァイオリン協奏曲に初挑戦。丁寧に弾こうとする意識が強く出た、よく歌う演奏で、バッティストーニがしっかり寄り添って熱演を支えた。「より幅広い音楽性を身につけたい」と舞台での質問に答えていたように、成長が楽しみだ。
ピアノの五十嵐薫子は2022年のジュネーヴ国際音楽コンクールで第3位を獲得した実力派。桐朋学園大学を経て、本格的なキャリアに入った新星だ。すでに実演に場慣れしていることもあって、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」を明快なタッチで弾き進めた。アーティキュレーションや音色に工夫の跡がみられ、バックとの対話で表情を加えるなどの余裕もみせた。バッティストーニも、のびのびとした快活なドライブを聴かせた。
作曲活動も行う指揮者が披露した新作「コリバス―管弦楽のための幻想的舞踏曲」は、華やかな舞曲が続く約10分のオーケストラ・ピースで、世界初演となった。
将来を嘱望される才能に飛躍のチャンスを与える試みは、音楽界にとっても有意義な先行投資。この心意気をぜひ継続してほしい。
(深瀬満)
公演データ
オフィシャルサプライヤースペシャル
未来の巨匠コンサート2023
11月19日(日)15:00 Bunkamuraオーチャードホール
プログラム
グリンカ:オペラ『ルスランとリュドミラ』序曲
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47
アンドレア・バッティストーニ:コリバス―管弦楽のための幻想的舞踏曲(新作)
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 作品73「皇帝」
ピアノ:五十嵐薫子
ヴァイオリン:村田夏帆
指揮:アンドレア・バッティストーニ
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。