1840年に創設されたイギリスの名門オーケストラのひとつ、ロイヤル・リヴァプール・フィルの日本ツアーが、5月11日の佐賀公演を皮切りに行われる。公演を前に、同オーケストラを率いる首席指揮者、ドミンゴ・インドヤンにオーケストラの魅力や公演の聴きどころを語ってもらった。(取材・文=青澤 隆明)
ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団がまもなく、5月中旬に待望の日本ツアーを行う。英国最古の歴史を誇る名門オーケストラの初来日はじつに創立175周年にあたる2015年を待ったが、このときの演奏は首席指揮者ヴァシリー・ペトレンコとともに新たなる黄金時代を感じさせた。
2021年にその後を継いだドミンゴ・インドヤンは、ベネズエラのエル・システマ出身の新鋭。2028年までの任期延長も発表されたように、いまコンビとしても乗りに乗っているところだろう。ロシアの大曲を主に、幅広く編まれた多彩なプログラムも楽しみだ。
——ロイヤル・リヴァプール・フィルとの最初の出会いはどのような体験でしたか?
ドミンゴ・インドヤン(以下、インドヤン) 2019年6月に初めて指揮し、最初からケミストリーが起こりました。指揮台に歩いていった最初の瞬間から、演奏家たちとたちまち繋がりを感じたのです。街で出会う人もみんなとても温かく歓迎してくれて、あっと言う間に〝ホーム〟にいる感覚になりましたね。そのわずか半年後に首席指揮者に招かれて、ほんとうにうれしかったですよ。私たちは一丸となり、最善の成果を得るために同じ方向で協働しています。
——有数のオーケストラのなかでも、リヴァプール・フィルはどこが特別なのでしょう?
インドヤン このオーケストラには独特の音がありますが、それは生きものですし、私たちの望む変化や発展をもたらすにはどうすべきかをつねに議論しています。素晴らしいことに、イギリスのオーケストラらしく彼らは譜面の読み込みがとても速い。いっしょにレコーディングを行うことにも私は特別な喜びを覚えます。
——今回の日本ツアーのプログラミングについてうかがいましょう。
インドヤン 日本では興味深く多様なプログラムをお届けしたいですし、加えて私たちはノブ(辻井伸行)とのパートナーシップをほんとうに楽しんでいます。彼は何度もリヴァプールで演奏してきて、現地ではポップ・スターのような歓迎を受けていますよ。
——辻井伸行さんとは2023年のBBCプロムスでラフマニノフの協奏曲第3番を、22年には本拠地でベートーヴェンの第5番「皇帝」を共演されてきましたね。
インドヤン いずれの共演でも、私は特別な繋がりを覚えました。ノブと音楽するのは実にたやすく、その演奏にはきわめて深い情感と輝かしいヴィルトゥオージティを感じます。プロムスでも温かく迎えられたラフマニノフの協奏曲を、彼の母国で披露できるのは誇らしいです。
——お若い頃PMFオーケストラにヴァイオリニストとして参加され、後には同オーケストラや新日本フィルの指揮台にも立たれました。日本と聴衆の印象はいかがでしょう?
インドヤン 初めてきたときは私もとても若く、大きな示唆を受けたベルナルド・ハイティンクの指揮でツアーをしたことは特別な思い出です。以来何度も日本を訪れていますが、オーケストラも聴衆も大好きです。食べ物もおいしいし、世界でいちばん好きな場所のひとつです。ベネズエラ人として野球を観て育ちましたから、私も秘めたる情熱を共有していますよ。
——指揮者として、音楽家として、ひとりの人間として、今後どのようなことを成し遂げたいとお考えですか?
インドヤン 音楽はあらゆる年齢や出自をもつ大勢の人々をひとつにします。私も音楽を介し、ステージで生み出される響き、聴衆との対話、偉大な作曲家の遺産を大切にし、未来を築くために今日の素晴らしい作曲家を知らしめることを通じて、たくさんの人たちを結びつけたいと願っています。
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あおさわ・たかあきら
音楽評論家。東京外国語大学英米語学科卒。クラシック音楽を中心に、評論、エッセイ、解説、インタビューなどを執筆。主な著書に「現代のピアニスト30ーアリアと変奏」(ちくま新書)、ヴァレリー・アファナシエフとの「ピアニストは語る」(講談社現代新書)、「ピアニストを生きるー清水和音の思想」(音楽之友社)。