じっくり聴き込みたい室内楽の新譜がそろった。ベートーヴェンにブラームス、傑作の数々に、ベテランから気鋭まで、みな真剣勝負を繰り広げている。
<BEST1>
ベートーヴェン・フォー・スリー
交響曲第4番&ピアノ三重奏曲第7番「大公」
エマニュエル・アックス(ピアノ)/レオニダス・カヴァコス(ヴァイオリン)/ヨーヨー・マ(チェロ)
<BEST2>
ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第1番&第14番
ウェールズ弦楽四重奏団
<BEST3>
ブラームス ヴァイオリン・ソナタ全集(第1~3番)
三浦文彰(ヴァイオリン)/清水和音(ピアノ)
ベートーヴェンの交響曲をピアノ三重奏に編曲し、簡便に楽しめるようにする工夫は、作曲当時から行われてきた。ヨーヨー・マ、エマニュエル・アックス、レオニダス・カヴァコスと、現代きっての名手3人によるトリオは「ベートーヴェン・フォー・スリー」と題して、継続的にCDをリリース。シリーズ第3弾では交響曲第4番(シャイ・ウォスネル編曲)に、元々この編成による傑作のピアノ三重奏曲第7番「大公」を組み合わせて、王道を行く1枚にまとめ上げた。
目玉の「大公」では、ゆったりとした大人の風格が前面に出る。3人は曲を慈しむように、たっぷり旋律を歌わせ、深い呼吸と余裕をたたえる。立ちのぼる温かい情感が比類ない。交響曲第4番ではアレンジの妙が楽しめる。ピアノの円満な音色と歌心、チェロの艶やかな膨らみとコク、ヴァイオリンの純度が高いストレートな奏風と、各人の個性が生かされ、原曲の興趣(きょうしゅ)を的確に伝える。
国内の気鋭奏者で作るウェールズ弦楽四重奏団は、難関のミュンヘンARD国際音楽コンクールで2008年に3位入賞し、着実に活動を続けてきた。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲の全集録音は6作目となった。ストイックなまでに音を磨き上げ、精緻に築く合奏の凄みが一段と増し、解釈の彫琢が深い。特に晩年の傑作、第14番での求心的なアプローチに胸を打たれる。6月にサントリーホールで予定される全曲演奏会への期待も高まる。
勢いに乗る三浦文彰と、ベテランの風格を醸す清水和音のデュオは、ベートーヴェンのソナタ全曲演奏会に挑むなど、こちらも実績を重ねている。ブラームスのソナタ全曲盤でも、清水の懐が深くロマンティックな情緒あふれるピアノに乗って、三浦が若々しい情熱をストレートにぶつけ、両者の持ち味が絶妙な相乗効果を上げている。
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。