3月に水際対策のための入国制限が緩和され、この春から、海外の演奏家の来日が戻ってきた。ひところ日本人指揮者が大活躍していた日本のオーケストラであるが、5・6月の在京オーケストラは、コロナ禍以前を思い出させる国際色豊かなラインナップである。
5月、NHK交響楽団では、今秋の首席指揮者就任を前にファビオ・ルイージが登場する。今回は、リムスキー=コルサコフの「シェエラザード」、ベートーヴェンの交響曲第8番などの親しみやすい名曲が並び、ルイージの名匠ぶりが味わえるであろう。また、4月に東京・春・音楽祭の「ローエングリン」で名演を残したマレク・ヤノフスキが再び来日し、シューベルトの交響曲第8番「ザ・グレート」でコンサート指揮者としての至芸を披露する。N響にはユースチケットの制度があり、25歳以下なら世界的名指揮者とN響とのハイ・レベルな演奏が1,000円代から5,000円代の廉価で楽しめるので、若い人たちにはお勧めしたい。
東京交響楽団音楽監督のジョナサン・ノットが5月に戻って来るのも楽しみ。コロナ禍のためにできなかった東響コーラスとの、ウォルトンのオラトリオ「ベルシャザールの饗宴」が実現することを願わずにはいられない。ブラームスの交響曲第3番にも注目。
東京フィルでは、5月に名誉音楽監督チョン・ミョンフンが、8か月振りに帰って来る。パリでのキャリアの長いチョンが得意とするフランス音楽が満喫できる。また、6月には、3月の定期演奏会で記憶に残るスメタナの「わが祖国」を指揮した特別客演指揮者のミヒャエル・プレトニョフが再来日し、自ら編集した「白鳥の湖」を振る。
読売日本交響楽団では、6月に常任指揮者セバスティアン・ヴァイグレがブルックナーの交響曲第7番を取り上げる。読響は、ブルックナーの交響曲第3番(ヴェンツァーゴ)、第4番(鈴木優人)、第5番(下野竜也)と目覚ましい演奏を続けていて、この常任指揮者との第7番は非常に期待できる。また、5月には、コペンハーゲン・フィル首席指揮者の上岡敏之が日本で久々に指揮をする。
新日本フィルの5月の定期演奏会には、次期音楽監督の佐渡裕が登場し、32年前のブザンソン国際指揮者コンクール優勝後の新日本フィルとの凱旋公演のプログラムを再現する。ベートーヴェンの交響曲第7番とR・シュトラウスの「ドン・ファン」は、佐渡が恩師バーンスタインにレッスンを受けた思い出の曲。6月には、巨匠シャルル・デュトワが来日し、ドビュッシー、ラヴェル、チャイコフスキーなど十八番のレパートリーを指揮して、新日本フィルの創立50周年を祝う。
5月の日本フィルでは、昨年12月にマーラーの交響曲第5番を指揮して首席客演指揮者に就任したばかりのカーチュン・ウォンが、マーラー・シリーズ第2弾として交響曲第4番を取り上げる。
東京都交響楽団の5月は、アメリカ出身のリットンが来日し、コープランドの交響曲第3番を取り上げる。アメリカで育った金川真弓のバーンスタイン「セレナード」も聴きものである。
東京シティ・フィルは、5月に首席客演指揮者の藤岡幸夫が黛敏郎の作品を取り上げ、「かてぃん」の愛称で大人気の角野隼斗がラヴェルのピアノ協奏曲を弾く。6月定期では桂冠名誉指揮者の飯守泰次郎によるシューマン交響曲全曲演奏シリーズが完結。
4月に東京ニューシティ管弦楽団から改称した、パシフィックフィルハーモニア東京の5月の定期演奏会は、飯森範親音楽監督就任披露となる。ショスタコーヴィチの交響曲第1番やメイソン・ベイツの「マザーシップ」(日本初演)など刺激的なプログラム。6月にはイギリス出身のステファン・アズベリーを招聘し、ゴリホフのチェロ協奏曲「アズール」やコープランドの交響曲第3番を取り上げる。パシフィックフィルハーモニア東京では、25歳以下の学生限定で、5000円で1年間すべての定期演奏会が聴ける「学生年間パスポート」の制度があるので、学生ならそれも利用したい。
やまだ・はるお
音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。