ドイツの名門、バイエルン放送交響楽団(以下、BRSO)が、昨年首席指揮者に就任したサイモン・ラトルに率いられて今月、日本公演を行う。その聴きどころについて紹介する。
今回の来日公演の大きな特徴として挙げられるのは、ラトルのために書かれたハリソン・バートウィッスルの曲を除けば、すべてドイツ・オーストリア(独墺)系の作品でプログラムが編成されていることだ。各公演のメインはマーラー、ブルックナー、ブラームス。そして休憩前の演目もチョ・ソンジンをソリストにブラームス、ベートーヴェンのピアノ協奏曲、さらにはワーグナー、ウェーベルン、リゲティと独墺系の作品で固められている。
ドイツを代表するオケのひとつであるBRSOが独墺系主体のプログラムで日本公演を行うことは何ら不自然ではない。とはいえ、BRSOは放送局が運営する楽団だけに独墺ものに限らず、古典から現代まで広いレパートリーで高水準の演奏を行うことは周知の事実である。加えて一方のラトルもバーミンガム市響、ベルリン・フィル時代からレパートリーの多彩さは多くの音楽ファンの知るところである。
そんな両者が日本公演に向けてこのオーケストラのレパートリーの核となる独墺系作品を集中的に取り上げることは、首席指揮者としてのラトルの狙いを見てとることができる。現に24/25シーズンに入ってからザルツブルク音楽祭、ルツェルン音楽祭でマーラーの交響曲第6番を、続くBBCプロムスではマーラー6番のほか、ブルックナー交響曲第4番をメインに据えたプログラムを披露している。さらに今月に入ってからはワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」第2幕を演奏会形式で上演するなど、独墺系の重量級作品に相次いで取り組んだ後、日本にやってくるわけだ。
そうした中、注目したいのは28日のNHK音楽祭などで演奏されるマーラーの交響曲第7番「夜の歌」である。この作品は前任のマリス・ヤンソンスが2018年の来日公演で取り上げる予定であったが、体調不良でキャンセルとなり、その〝リベンジ〟というわけではないのだが、ラトルが引き継ぐ形で、日本のファンの前で改めて披露するもの。アジア・ツアーへの出発直前の11月7日、8日にミュンヘンで演奏し、それをライブ録音してCD化、日本公演の会場で販売をスタートさせるという異例のスピードのプロジェクトも進行中だ。
複雑な対位法を随所で駆使し、重層的な音楽から複数の解釈を可能とする奥深さを持つマーラーの第7交響曲。音楽的にはもちろん、技術的にも難易度の高い作品ではあるが、マーラーを得意とするラトル、そして高い合奏能力に定評のあるBRSOがどのような演奏を繰り広げるのか、興味は尽きない。
(宮嶋 極)
公演データ
サイモン・ラトル 指揮 バイエルン放送交響楽団日本公演
11月23日(土・祝)14:00 兵庫県立芸術文化センター
バートウィッスル:サイモンへの贈り物
マーラー:交響曲第7番ホ短調「夜の歌」
11月24日(日)17:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第第2番変ロ長調Op.19(ピアノ:チョ・ソンジン)
ブルックナー:交響曲第9番ニ短調(コールス校訂版)
11月26日(火)19:00 サントリーホール
ブラームス:ピアノ協奏曲第第2番変ロ長調Op.83(ピアノ:チョ・ソンジン)
ブラームス:交響曲第2番ニ長調Op.73
11月27日(水)19:00 サントリーホール
リゲティ:アトモスフェール
ワーグナー:歌劇「ローエングリン」第1幕への前奏曲
ウェーベルン:6つの作品Op.6
ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデより前奏曲と〝愛の死〟
ブルックナー:交響曲第9番ニ短調(コールス校訂版)
11月28日(木)1900 NHKホール(NHK音楽祭)
バートウィッスル:サイモンへの贈り物
マーラー:交響曲第7番ホ短調「夜の歌」
11月29日(金)18:45 愛知県芸術劇場コンサートホール
バートウィッスル:サイモンへの贈り物
マーラー:交響曲第7番ホ短調「夜の歌」
詳細 サー・サイモン・ラトル指揮 バイエルン放送交響楽団 | クラシック音楽事務所ジャパン・アーツクラシック音楽事務所ジャパン・アーツ
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。