20回目を迎えた東京・春・音楽祭。今年は3月15日から4月21日までの間、開催され、東京・上野を舞台に70以上もの公演が行われる。オペラにコンサート、室内楽、そして博物館や美術館を会場にした演奏会など魅力的なステージが目白押しである。何を聴くべきか、同音楽祭の芦田尚子事務局長の〝お勧め〟を中心に注目公演をいくつか紹介する。なお、中心企画のひとつである東京春祭ワーグナー・シリーズ「トリスタンとイゾルデ」(3月27日、30日 東京文化会館大ホール、マレク・ヤノフスキ指揮 N響)については「必聴」で紹介済みなのでこちら 新国立劇場VS東京・春・音楽祭ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」聴き比べ(下) | CLASSICNAVIをご覧ください。(宮嶋 極)
東京春祭の人気企画といえば、イタリア・オペラ界の大御所リッカルド・ムーティによるシリーズであろう。今年はヴェルディの名作「アイーダ」を演奏会形式で取り上げる。(4月17、20日 東京文化会館大ホール)
「ムーティさんは20周年ということで、今回は若手音楽家を指導するイタリア・オペラ・アカデミーではなく〝アイーダ〟をお祝いの意味も込めて選曲しました。ポイントは彼が大好きなオーケストラと東京オペラシンガーズによる演奏。そして信頼を寄せる歌手を昨年末までかかって人選し、アカデミー出身の若手も交えたキャストを組むなど、東京でヴェルディを上演することの意義を見出してエネルギーを注いでくださっています」と芦田事務局長。
題名役のマリア・ホセ・シーリ、ルチアーノ・ガンチ(ラダメス)をはじめ実力派歌手を起用。演奏は在京オケを中心に若手の腕利きプレイヤーで編成される東京春祭オーケストラ(コンサートマスター・郷古廉)。ムーティのヴェルディと作品に対する深い愛情に裏打ちされた演奏は毎年、多くの聴衆の心を揺り動かすものになってきた。「アイーダ」でも音楽面での決定版とも言っても過言ではない名演が期待される。
東京春祭は2005年に「東京のオペラの森」の名称でスタート。その初日には小澤征爾指揮、ロバート・カーセン演出でリヒャルト・シュトラウスの「エレクトラ」が上演された。それにちなんで最終日の4月21日に「エレクトラ」(演奏会形式、東京文化会館大ホール)で第20回を締めくくる。指揮はオペラの名匠セバスティアン・ヴァイグレで、彼が音楽監督を務める読売日本交響楽団が演奏を担当。「ヴァイグレと読響の関係は今、非常によいので演奏会形式ならではの形で作品の魅力が引き出されることでしょう」と芦田事務局長。エレーナ・パンクラトヴァ(エレクトラ)、藤村実穂子(クリテムネストラ)、ルネ・パーペ(オレスト)ら世界的名歌手が集結。ハイレベルの演奏が繰り広げられそうだ。
このほかオペラ関連ではワーグナー「ニーベルングの指環」ガラ・コンサート(4月7日、東京文化会館大ホール、マレク・ヤノフスキ指揮、N響)、プッチーニ・シリーズの第5弾として「ラ・ボエーム」(4月11、14日 東京文化会館大ホール、ピエール・ジョルジョ・モランディ指揮、東京交響楽団)も開催される。
最終日の「エレクトラ」で指揮を務めるセバスティアン・ヴァイグレ、エレーナ・パンクラトヴァ(エレクトラ)や藤村実穂子(クリテムネストラ)ら出演者陣 (C)読売日本交響楽団/(C)Vitaly Zapryagaev/(C)R&G Photography
最終日の「エレクトラ」で指揮を務めるセバスティアン・ヴァイグレ、エレーナ・パンクラトヴァ(エレクトラ)や藤村実穂子(クリテムネストラ)ら出演者陣 (C)読売日本交響楽団/(C)Vitaly Zapryagaev/(C)R&G Photography
今年はシェーンベルクの生誕150年。これにちなんで弦楽四重奏曲などの室内楽作品を網羅した東京芸術大学奏楽堂における公演(4月6日)も注目される。演奏はパリ高等音楽院卒業生で結成され、ベートーヴェンからロマン派、新ウィーン楽派、そして現代作品までと幅広いレパートリーで意欲的な活動を展開しているディオティマ弦楽四重奏団ら。
同関連では「シェーンベルクとウィーン」(4月11日、東京文化会館小ホール)も面白そうだ。曲目はシェーンベルクが編曲したウィンナ・ワルツの名曲とマーラーの作品を中心に、アイスラー編曲によるブルックナーの交響曲第7番第3楽章など。出演は豊嶋泰嗣(ヴァイオリン)、甲斐雅之(フルート)、コハーン・イシュトヴァーン(クラリネット)、福川伸陽(ホルン)、竹島悟史(打楽器)ら内外の名手13人。芦田事務局長は「シェーンベルク企画は単にコンサートを聴くということだけではなく、行くことによって何かを知ることができる内容であり、お楽しみいただけると思います」と太鼓判を押す。
上野の博物館、美術館を会場にした多彩なミュージアム・コンサートもこの音楽祭ならではの企画。国立科学博物館(科博)では恐竜の化石をバックにした演奏も名物となっている。「東京国立博物館(東博)をはじめいずれの会場も20周年に寄せて、これまで音楽祭と関係の深かった演奏家が大集合するというコンセプトで企画しました」と芦田さん。東博ではギタリストの鈴木大介が2回(3月26日、4月9日)にわたってバッハの無伴奏チェロ組曲&リュート組曲のギター版の全曲演奏を行う。科博ではコントラバスの幣隆太朗(南西ドイツ放送響)がピアニストの秋元孝介とともにピアソラ、ヒンデミット、シューベルトといった多彩なプログラムを聴かせる(3月17日)。さらに人気のカウンターテナー藤木大地とチェンバロの大塚直哉の公演(4月7日)などバラエティ豊かな公演が多数予定されている。
ウィーンの伝統的なピアニズムの体現者ルドルフ・ブッフビンダーによるベートーヴェンのピアノ・ソナタ・ツィクルス(3月15、16、17、19、20、21、22日 東京文化会館小ホール)も大きな目玉のひとつ。ブッフビンダーが2014年のザルツブルク音楽祭で行った同ツィクルスのライブ音源が最近CDでもリリースされているが、この時から10年が経過し円熟の度合を深めたベートーヴェンが披露されるに違いない。
バイロイト音楽祭との提携公演で同音楽祭の総監督カタリーナ・ワーグナーが芸術監督を務め、監修・再演演出も担当する「子どものためのワーグナー〝トリスタンとイゾルデ〟」(3月23、24、28、30、31日 三井住友銀行 東館ライジング・スクエア1階)はキッズだけではなく、ワーグナーになじみが薄い大人にもうってつけの企画といえよう。(残席に余裕がある場合、大人だけでもチケットを購入可能)
各公演の日程、出演者、プログラム等の詳細は東京・春・音楽祭のホームページ(プログラム情報 | 東京・春・音楽祭 (tokyo-harusai.com))からご確認ください。
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。