豊麗な音楽に深いゆかり滲ませて 小林研一郎&ハンガリー国立フィル

ハンガリー国立フィルの日本ツアー全6公演を指揮した小林研一郎 (C)山本倫子
ハンガリー国立フィルの日本ツアー全6公演を指揮した小林研一郎 (C)山本倫子

 今年1月に東京で行われたオーケストラ公演の振り返りの最終回は小林研一郎指揮、ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団。取材したのは17日、サントリーホールで行われた公演。(宮嶋 極)

 

 小林研一郎とハンガリーとの関係は深い。さかのぼること1974年、第1回ブダペスト国際指揮者コンクールで第1位及び特別賞を獲得したことが小林にとっては国際的キャリアをスタートさせるきっかけとなった。その後、1987年から10年にわたってハンガリー国立響(現在のハンガリー国立フィル)の常任指揮者、音楽監督兼常任指揮者を務めた。長年のハンガリーでの音楽活動に対してハンガリー政府からリスト記念勲章、ハンガリー文化勲章などの叙勲を受けているほか、リスト音楽院名誉教授の肩書も持つ。
 そうしたこともあって小林はリラックスした様子で公演を楽しんでいるように映った。前半は仲道郁代をソリストに、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番が演奏された。序盤、仲道に少し硬さが見られたが、やや遅めのテンポでじっくりと演奏を進める小林に支えられてすぐにオケとの呼吸が合い始め、緊密なやり取りが繰り広げられた。

小林とゆかりが深いハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団 (C)József Wágner Csapó
小林とゆかりが深いハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団 (C)József Wágner Csapó
 後半はチャイコフスキーの交響曲第5番。「炎のマエストロ」、「炎のコバケン」の愛称で知られる小林だが、最近は以前のように情熱を前面に出した指揮ぶりは影を潜め、人間味にあふれた温かみを感じさせる音楽を聴かせてくれることが多くなった。この日のチャイコフスキーも同様で、過度にオケを煽り立てることをせずに美しい旋律をたっぷりと歌わせ、豊麗な演奏に仕上げていた。
 終演後、小林は恒例の〝マイクパフォーマンス〟でアンコール曲、ブラームスのハンガリー舞曲第5番の演奏法について説明した上で指揮を始めた。最初は一般的なスタイルで前半部分を、続いてテンポを大きく揺らした表情豊かな〝コバケン節〟で5番全曲を披露し、ほぼ満員の客席を大いに沸かせていた。オケが退場しても鳴り止まない拍手に小林は再びステージに登場し、満足そうな笑顔を浮かべ喝采に応えていた。

公演データ

【小林研一郎指揮 ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団東京公演】

〇1月16日(月)サントリーホール

ベートーヴェン:「エグモント」序曲
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番ト短調Op.26(ヴァイオリン:千住 真理子)
ドヴォルザーク:交響曲第9番ホ短調Op.95「新世界より」

〇1月17日(火)サントリーホール

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番変ホ長調Op.73「皇帝」(ピアノ:仲道 郁代)
チャイコフスキー:交響曲第5番ホ短調Op.64

Picture of 宮嶋 極
宮嶋 極

みやじま・きわみ

放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。

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