9月に開催された関西のオーケストラのコンサートについて2回にわたって報告する。初回は沖澤のどかかが常任指揮者に就任した京都市交響楽団の東京公演(24日、サントリーホール)。(宮嶋 極)
【京都市交響楽団 東京公演】
沖澤の常任指揮者就任のお披露目となったこの公演、前半がベートーヴェンの交響曲第4番、後半はフランスの現代作曲家ギョーム・コネソンの「コスミック・トリロジー」の日本初演という、なかなか凝ったプログラム。〝玄人好み〟の演目ではあるが、客席を2階正面から見渡すと7割5分超の入り。こうしたところにも沖澤への期待の大きさがうかがえる。彼女はそうした期待を裏切ることなく、目の覚めるような快演を聴かせてくれた。
1曲目のベートーヴェンは弦楽器の編成を小さくし、ヴィブラートをほとんどかけないことに加えて、口径の小さなティンパニを使用するなどピリオド(時代)奏法に寄せたスタイル。構造をキッチリと固めてキビキビと音楽を進めていくところは師匠のキリル・ペトレンコ譲りということができそうだ。指定された繰り返しをすべて履行し、余計な装飾を一切排したストレートな音楽作りながら、冗長に感じられる箇所はまったくない。それは瑞々しい生命感と活発な推進力が音楽に内包されていたためで、21世紀の今、現代オケが目指すべき古典派作品演奏のスタイルのひとつが具現化されたといっても過言でないくらいの会心の出来栄えであった。
2曲目、コネソンの「コスミック・トリロジー」は前日23日の京都での公演が日本初演だったので、私たちが聴いたのは日本では2回目の公開演奏ということになる。「スーパーノヴァ(超新星)」(1997年)、「暗黒の時代の一条の光」(2005年)、「アレフ」(07年)の3つの交響詩からなる大編成のオケを使った作品。指揮者によって3曲の演奏順は異なり、沖澤は作曲年代順に演奏した。こうして聴くとコネソンの作曲技法の充実の軌跡とともに宇宙の進化が表現されているようでもあり、面白い。
筆者も生演奏を聴くのは初めて。最初はバルトークやストラヴィンスキーの延長線上にあるように聴こえ、そのうちにミニマル音楽の要素が加わり、さらにはジョン・ウィリアムズを連想させるような音場の創出もあった。多数の打楽器群を含む大編成のオケをテキパキとさばいて、多様な響きを作り出した沖澤の非凡さとオケ・ドライブの確かさが鮮やかに示された。
この日は京都市響の3人のコンマスが総出演していたが、コンマスを務めたのは〝組長〟のニックネームとともに人気急上昇中の石田泰尚。石田組長の渾身(こんしん)のリードによってオケ全体も気迫のこもった熱演を繰り広げ、終演後には客席から万雷の拍手が湧き起こった。楽員が退場しても鳴りやまず、沖澤は石田組長らコンマスとともにステージに再登場し喝采に応えていた。それにしても現代音楽で聴衆をこれほどまでに沸き立たせる沖澤、その才能が本物であることを再確認させてくれる公演となった。
公演データ
9月24日(日)14:00 サントリーホール
指揮:沖澤 のどか(常任指揮者)
コンサートマスター:石田 泰尚
ベートーヴェン:交響曲第4番変ロ長調Op.60
コネソン:管弦楽のための「コスミック・トリロジー」(日本初演)
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。