クラウス・マケラ&パリ管、再び席巻……25年6月

3年ぶりの来日で一層の充実ぶりを聴かせたマケラとパリ管 (C)N.Ikegami / MUZA Kawasaki Symphony Hall
3年ぶりの来日で一層の充実ぶりを聴かせたマケラとパリ管 (C)N.Ikegami / MUZA Kawasaki Symphony Hall

全国的に梅雨の時期とは信じられないほどの猛暑が続いた6月、海外オーケストラ、アーティストの来日公演も相次いで開催されるなど、音楽界も気候に負けないほどの熱い季節となった。そんな6月のステージからピカイチを、さらに猛暑が予想される8月開催予定の公演からイチ推しを選者の皆さんに紹介していただく。

先月のピカイチ

◆◆6月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈山形交響楽団 第325回定期演奏会〉

6月8日(日)山形テルサホール

オッコ・カム(指揮)

セーデルマン:スウェーデン祝祭音楽/モーツァルト:交響曲第39番/シベリウス:組曲「レンミンカイネン」

2018年の初共演以来、山響とともにシベリウスに取り組むオッコ・カム 写真提供:山形交響楽団
2018年の初共演以来、山響とともにシベリウスに取り組むオッコ・カム 写真提供:山形交響楽団

次点(同率2公演)

〈パリ管弦楽団 日本公演〉

6月18日(水)ミューザ川崎シンフォニーホール

クラウス・マケラ(指揮)

サン=サーンス:交響曲第3番「オルガン付」/ベルリオーズ:幻想交響曲

〈新日本フィルハーモニー交響楽団 第664回定期演奏会 サントリーホール・シリーズ〉

6月28日(土)サントリーホール

アンドレイ・ボレイコ(指揮)/ツォトネ・ゼジニゼ(ピアノ)

ストラヴィンスキー:ピアノと管弦楽のためのカプリッチョ/ショスタコーヴィチ:交響曲第11番「1905年」

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~故・村川千秋氏が育んだ山響のシベリウス~

山響をみずから創立し、その存続と発展に心血を注いだ指揮者、故・村川千秋氏。その山響が、氏があれほど愛して繁く指揮していたシベリウスの作品をかくも陰翳豊かに演奏するオケにまで成長したことを、ピカイチに選んで氏に報告したい。次点には「幻想交響曲」のマケラとパリ管を選ぶつもりでいたが、ボレイコ指揮新日本フィルのショスタコーヴィチの「1905年」があまりにも見事な豪演だったため、敢えて同率として挙げた。

来月のイチオシ

◆◆8月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈新国立劇場 細川俊夫:歌劇「ナターシャ」委嘱作品・世界初演〉

8月11日(月・祝)、13日(水)、15日(金)、17日(日)新国立劇場オペラパレス

大野和士(指揮)/クリスティアン・レート(演出)/イルゼ・エーレンス(ナターシャ)/山下裕賀(アラト)/クリスティアン・ミードル(メフィストの孫)他/新国立劇場合唱団/東京フィルハーモニー交響楽団

次点

〈セイジ・オザワ 松本フェスティバル2025 ブリテン:オペラ「夏の夜の夢」〉

8月17日(日)、20日(水)、24日(日)まつもと市民芸術館・主ホール

沖澤のどか(指揮)/ロラン・ペリー(演出・装置・衣装)/ニルス・ヴァンダラー(オーベロン)/シドニー・マンカソーラ(タイターニア)/フェイス・プレンダーガスト(パック)/ディングル・ヤンデル(シーシアス)/クレア・プレスランド(ヒポリタ)他/

OMF児童合唱団/サイトウ・キネン・オーケストラ

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~オペラ2作品、委嘱新作と名匠ペリーの演出~

「ナターシャ」は大野和士芸術監督の委嘱による新作。母なるものを求めてナターシャと出逢ったアラトが、メフィストの孫と称する男に誘われて現代の地獄へ——。細川俊夫の叙情的な音楽が魅力だが、大役に抜擢された山下裕賀にも注目したい。一方「夏の夜の夢」では、沖澤のどかの指揮とともに、名匠ロラン・ペリーの演出が期待できよう。小澤征爾が去った「セイジ・オザワ 松本フェスティバル」の今後の進路を占う上演でもある。

先月のピカイチ

◆◆6月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈パリ管弦楽団 日本公演〉

6月18日(水)ミューザ川崎シンフォニーホール

クラウス・マケラ(指揮)

サン=サーンス:交響曲第3番「オルガン付」/ベルリオーズ:幻想交響曲

次点

〈神奈川フィルDramatic Series 楽劇「ラインの黄金」〉

6月21日(土)横浜みなとみらいホール

沼尻竜典(指揮)/青山貴(ヴォータン)/黒田祐貴(ドンナー)/チャールズ・キム(フロー)/澤武紀行(ローゲ)/妻屋秀和(ファーゾルト)/斉木健詞(ファフナー)/志村文彦(アルベリヒ)/高橋淳(ミーメ)/谷口睦美(フリッカ)/八木寿子(エルダ)他/神奈川フィルハーモニー管弦楽団

ワーグナー:楽劇「ニーベルングの指輪」序夜「ラインの黄金」(セミ・ステージ形式)

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~全力投球の凄演 マケラ&パリ管の「幻想交響曲」~

マケラ&パリ管は「幻想交響曲」が凄演。全ての音が生気を帯びて躍動し、中でも第4〜5楽章の清新で鮮烈な表現は圧巻だった。あのパリ管がこれほど全力投球したのも驚き。マケラ恐るべしだ。ただこの日は、音にリアリティのあるホールの特性が大いに味方した感もある(翌日のサントリーホール公演は、よりエレガントでクールな印象を受けた)。次点は「なし」も考えたが、沼尻の巧みな構築が光った「ラインの黄金」を挙げておく。

来月のイチオシ

◆◆8月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈セイジ・オザワ 松本フェスティバル(OMF) オーケストラ コンサートB〉

8月30日(土)、31日(日)キッセイ文化ホール

クリストフ・エッシェンバッハ(指揮)/アレクサンドラ・ザモイスカ(ソプラノ)/藤村実穂子(メゾ・ソプラノ)/OMF合唱団、東京オペラシンガーズ/サイトウ・キネン・オーケストラ

マーラー:交響曲第2番「復活」

小澤征爾&サイトウ・キネン・オーケストラの録音も遺る「復活」を名匠エッシェンバッハのタクトで (C) Luca Piva
小澤征爾&サイトウ・キネン・オーケストラの録音も遺る「復活」を名匠エッシェンバッハのタクトで (C) Luca Piva

次点

〈フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2025 九州交響楽団〉

8月7日(木)ミューザ川崎シンフォニーホール

太田弦(指揮)/高野百合絵(ソプラノ)

小出稚子:博多ラプソディ/ビゼー:歌劇「カルメン」から/ショスタコーヴィチ:交響曲第5番

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~OMFで小澤征爾ゆかりの「復活」を~

OMFは沖澤のどか指揮のブリテン「夏の夜の夢」も楽しみだが、ここは小澤征爾ゆかりの演目で、オーケストラの持ち味も生きそうな「復活」に一番の期待を。熱血漢エッシェンバッハが凄腕楽団を振っていかなる感銘を与えてくれるか? これはぜひ生で体験したい。サマーミューザの九響は、音楽祭全体を推す意味もあるが、太田弦が初の手兵と生み出す音楽も興味津々。地元で好評のコンビを首都圏で体感できるこの稀な機会は逃せない。

先月のピカイチ

◆◆6月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈パリ管弦楽団 日本公演〉

6月18日(水)ミューザ川崎シンフォニーホール

クラウス・マケラ(指揮)

サン=サーンス:交響曲第3番「オルガン付」/ベルリオーズ:幻想交響曲

次点(同率2公演)

〈いずみ室内楽シリーズ Vol.2 愛 小菅優 &ミヒャエラ・ゼリンガー〉

6月20日(金)住友生命いずみホール

小菅優(ピアノ)/ミヒャエラ・ゼリンガー(メゾ・ソプラノ)

ベートーヴェン:4つのアリエッタと二重唱より/フォーレ:「リディア」/ドビュッシー:「ビリティスの3つの歌」/プーランク:愛の小径/シューマン:歌曲集「女の愛と生涯」

〈巡礼の旅 ~阪田知樹と辿るベートーヴェンとリストの軌跡 第8回「古典回帰」〉

6月27日(金)Hakuju Hall

阪田知樹(ピアノ)

リスト:BACHの主題による幻想曲とフーガ/同:ピアノ・ソナタ/ベートーヴェン(リスト編曲):交響曲第8番

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~若手ならではの才気に溢れたマケラ&パリ管~

マケラとパリ管は2022年来日時の相思相愛がさらに深まり、全員が一丸となって熱い音楽を繰り広げた。老大家と名門オケの深い味わいを期待するのは「お門違い」、今は若い指揮者の才気を存分に楽しめばいい。日本の中堅世代のピアニストの活躍も目覚ましく小菅優が昨年のサントリーホールのチェンバーミュージック・ガーデンで「月に憑かれたピエロ」を共演したゼリンガーと大阪で奏でた濃密な歌曲の世界、阪田知樹がリスト「ロ短調ソナタ」でみせた究極の宇宙はそれぞれ、最大級の賞賛に値するだろう。

来月のイチオシ

◆◆8月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈新国立劇場 細川俊夫:歌劇「ナターシャ」委嘱作品・世界初演〉

8月11日(月・祝)、13日(水)、15日(金)、17日(日)新国立劇場オペラパレス

大野和士(指揮)/クリスティアン・レート(演出)/イルゼ・エーレンス(ナターシャ)/山下裕賀(アラト)/クリスティアン・ミードル(メフィストの孫)他/新国立劇場合唱団/東京フィルハーモニー交響楽団

「ナターシャ」を委嘱した大野和士(左)、台本は多和田葉子(中央)、作曲した細川俊夫
「ナターシャ」を委嘱した大野和士(左)、台本は多和田葉子(中央)、作曲した細川俊夫

次点

〈セイジ・オザワ 松本フェスティバル2025 ブリテン:オペラ「夏の夜の夢」〉

8月17日(日)、20日(水)、24日(日)まつもと市民芸術館・主ホール

沖澤のどか(指揮)/ロラン・ペリー(演出・装置・衣装)/ニルス・ヴァンダラー(オーベロン)/シドニー・マンカソーラ(タイターニア)/フェイス・プレンダーガスト(パック)/ディングル・ヤンデル(シーシアス)/クレア・プレスランド(ヒポリタ)他/

OMF児童合唱団/サイトウ・キネン・オーケストラ

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~細川俊夫×多和田葉子の「ナターシャ」に熱視線~

今年は久々というか例外というか、バブル崩壊後絶えて久しかった日本の有名作曲家への委嘱新作オペラ世界初演が相次ぐ。中でも世界ランクの大家、古希を迎える細川がほぼ同世代で長年のドイツ体験を共有する作家、多和田葉子の台本で作曲した「ナターシャ」は大きな注目に値する。松本のブリテンは沖澤のどか指揮。沖澤のオペラ指揮は今のところとことん器楽的、管弦楽に歌手が合わせて進めることを前提としていると思えるが、彼女のポテンシャルをもってすれば、そろそろ次の展開があって良いタイミング。

先月のピカイチ

◆◆6月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈読売日本交響楽団 第683回名曲シリーズ〉

6月24日(火)サントリーホール

セバスティアン・ヴァイグレ(指揮)/アウグスティン・ハーデリヒ(ヴァイオリン)

スメタナ:歌劇「売られた花嫁」序曲/チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲/ドヴォルザーク:交響曲第7番

奥深いチャイコフスキーを紡いだハーデリヒ(右)とヴァイグレ (C)読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
奥深いチャイコフスキーを紡いだハーデリヒ(右)とヴァイグレ (C)読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

次点

〈アレクサンドル・メルニコフ(ピアノ)リサイタル〉

6月28日(土)TOPPANホール

ショスタコーヴィチ:24の前奏曲とフーガ

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~稀有なヴァイオリニスト、ハーデリヒ圧巻の演奏~

稀有なヴァイオリニストとはこういう人を指すのだろう。アウグスティン・ハーデリヒのヴァイオリンがオーケストラを誘い、ステージ上の奏者たちが旋律の奥深い感情を呼び覚ますチャイコフスキー。オケを掌握しているヴァイグレとの共創が随所で光った(速リポ)。10年ぶりに聞くメルニコフのショスタコーヴィチ「24の前奏曲とフーガ」、今の時代だからこそ作曲家の赤裸々な思いが強く伝わってくる。改めて作品の凄さを知った。

来月のイチオシ

◆◆8月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈新国立劇場 細川俊夫:歌劇「ナターシャ」委嘱作品・世界初演〉

8月11日(月・祝)、13日(水)、15日(金)、17日(日)新国立劇場オペラパレス

大野和士(指揮)/クリスティアン・レート(演出)/イルゼ・エーレンス(ナターシャ)/山下裕賀(アラト)/クリスティアン・ミードル(メフィストの孫)他/新国立劇場合唱団/東京フィルハーモニー交響楽団

次点

〈読売日本交響楽団 第685回名曲シリーズ〉

8月19日(火)サントリーホール

ユライ・ヴァルチュハ(指揮)/サーシャ・クック(メゾ・ソプラノ)/クレイ・ヒリー(テノール)

ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」から前奏曲と愛の死/マーラー:大地の歌

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~オペラ「ナターシャ」7つの地獄を巡るその先にあるものとは…~

世界的に活躍する作家・多和田葉子と作曲家・細川俊夫がタッグを組んだ新作オペラ「ナターシャ」は私たちが自分事として考えざるを得ないテーマを描く。7つの地獄を巡る主人公たちがたどり着く世界とは。新国立劇場、芸術監督大野和士による日本人作曲家委嘱作品第3弾。
読響とマーラーの9番、3番と名演を重ねてきたヴァルチュハがいよいよ「大地の歌」を振る。オペラ指揮者としての経験も豊かなだけにワーグナーにも注目だ。

先月のピカイチ(同率2公演)

◆◆6月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈パリ管弦楽団 日本公演〉

6月18日(水)ミューザ川崎シンフォニーホール

クラウス・マケラ(指揮)

サン=サーンス:交響曲第3番「オルガン付き」/ベルリオーズ:幻想交響曲

〈NHK交響楽団 第2041回定期公演〉

6月21日(土)NHKホール

タルモ・ペルトコスキ(指揮)/ダニエル・ロザコヴィッチ(ヴァイオリン)

コルンゴルト:ヴァイオリン協奏曲/マーラー:交響曲第1番「巨人」

N響との初共演となった25歳の俊英タルモ・ペルトコスキ 写真提供=NHK交響楽団
N響との初共演となった25歳の俊英タルモ・ペルトコスキ 写真提供=NHK交響楽団

次点

〈新国立劇場 ロッシーニ:「セビリャの理髪師」再演〉

5月25日(日)新国立劇場オペラパレス

コッラード・ロヴァーリス(指揮)/ヨーゼフ・E・ケップリンガー(演出)/上原真希(再演演出)/ローレンス・ブラウンリー(アルマヴィーヴァ伯爵)/脇園彩(ロジーナ)/ロベルト・デ・カンディア(フィガロ)/ジュリオ・マストロトータロ(バルトロ)/妻屋秀和(ドン・バジリオ)他/新国立劇場合唱団/東京フィルハーモニー交響楽団

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~フィンランドの期待の俊英指揮者、マケラ&ペルトコスキ~

6月のピカイチはマケラ指揮パリ管、ペルトコスキ指揮N響定期(速リポ)、甲乙つけ難くこの2公演を同点ピカイチに、次点はなしとした。20歳代のフィンランド出身の俊英2人は作品解釈の方向性、オケへの向き合い方などあらゆる面で好対照をなしているが、自分の音楽を実現させる高い能力は共通。今後、よきライバルとして楽壇を盛り上げていくに違いない。15日、沖澤のどかが都響を指揮した「春の祭典」も強い印象を残したことも付記しておく。

来月のイチオシ

◆◆8月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈新国立劇場 細川俊夫:歌劇「ナターシャ」委嘱作品・世界初演〉

8月11日(月・祝)、13日(水)、15日(金)、17日(日)新国立劇場オペラパレス

大野和士(指揮)/クリスティアン・レート(演出)/イルゼ・エーレンス(ナターシャ)/山下裕賀(アラト)/クリスティアン・ミードル(メフィストの孫)他/新国立劇場合唱団/東京フィルハーモニー交響楽団

次点

〈セイジ・オザワ 松本フェスティバル2025 ブリテン:オペラ「夏の夜の夢」〉

8月17日(日)、20日(水)、24日(日)まつもと市民芸術館・主ホール

沖澤のどか(指揮)/ロラン・ペリー(演出・装置・衣装)/ニルス・ヴァンダラー(オーベロン)/シドニー・マンカソーラ(タイターニア)/フェイス・プレンダーガスト(パック)/ディングル・ヤンデル(シーシアス)/クレア・プレスランド(ヒポリタ)他/

OMF児童合唱団/サイトウ・キネン・オーケストラ

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~世界的注目を集める細川俊夫の新作初演~

新国の日本人作曲家委嘱シリーズ第3弾「ナターシャ」初演。細川はヨーロッパでは日本国内よりもさらに高い評価を受けている。2004年にエンサン・プロヴァンス音楽祭で「班女」が大野の指揮で初演された際、当時バイロイトにいた筆者に現地音楽関係者から細川について何度も尋ねられ、驚いたことを記憶している。今回も世界的注目を集めそうだ。次点は昨年のOMFでネルソンス降板の代打で大熱演を披露した沖澤が取り組むブリテンのオペラ。名演の再現を期待したい。

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