感動的なヤーコプスのヘンデル、ムーティ春祭オケ渾身のイタリア・プロ…25年4月

演奏機会が稀なヘンデルの「時と悟りの勝利」を取り上げたヤーコプス&ビー・ロック・オーケストラ (C)大窪道治/提供:東京オペラシティ文化財団
演奏機会が稀なヘンデルの「時と悟りの勝利」を取り上げたヤーコプス&ビー・ロック・オーケストラ (C)大窪道治/提供:東京オペラシティ文化財団

今回の「先月のピカイチ 来月のイチオシ」は東京・春・音楽祭が開催されていることもあって多くの名演が生まれた4月のステージからピカイチを、海外オーケストラ、アーティストの来日が相次ぐ6月に予定されている公演からイチオシを筆者の皆さんに紹介していただいた。

先月のピカイチ

◆◆4月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈ルネ・ヤーコプス指揮 ヘンデル:オラトリオ「時と悟りの勝利」〉

4月4日(金)東京オペラシティ コンサートホール

ルネ・ヤーコプス(指揮)/カテリーナ・カスパー(快楽)/スンヘ・イム(美)/ポール・フィギエ(悟り)/トーマス・ウォーカー(時)/ビー・ロック・オーケストラ

次点

〈東京都交響楽団 第1020回定期演奏会Aシリーズ〉

4月30日(水)東京文化会館 大ホール

下野竜也(指揮)/東京混声合唱団

トリスタン・ミュライユ:ゴンドワナ/夏田昌和:オーケストラのための「重力波」/黛敏郎:涅槃(ねはん)交響曲

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~さすがのヤーコプス、逆転浮上の下野&都響~

2時間20分ものこのオラトリオを、これほど長さを感じずに聴いたのは初めてである。さすがヤーコプス、この上なく感動的なヘンデルを聴かせてくれた。次点には広上淳一&日本フィルと中村恵理、宮里直樹らによるヴェルディの「仮面舞踏会」(27日)を挙げるつもりでいたのだが、4月も大詰の30日夜の下野&都響の「涅槃交響曲」など現代作品の演奏会が新鮮で強烈で素晴らしく、9回裏逆転サヨナラ満塁本塁打で次点浮上。

来月のイチオシ

◆◆6月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈パリ管弦楽団 日本公演〉

6月19日(木)サントリーホール

クラウス・マケラ(指揮)

サン=サーンス:交響曲第3番「オルガン付」/ベルリオーズ:幻想交響曲

世界の名だたるオーケストラを席巻するマケラがパリ管を率いて来日 (C)Mathias Benguigui PASCO and CO
世界の名だたるオーケストラを席巻するマケラがパリ管を率いて来日 (C)Mathias Benguigui PASCO and CO

次点

〈ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団 日本公演〉

6月27日(金)サントリーホール

ラハフ・シャニ(指揮)/庄司紗矢香(ヴァイオリン)

モーツァルト:「フィガロの結婚」序曲/ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲/ブラームス:交響曲第4番

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~注目の若手指揮者が率いる来日公演2選~

このところ筆者の推薦演奏会が日本のオケに集中していたので、今回は久しぶりに来日勢から。注目指揮者との組み合わせから言って、やはり日の出の勢いにある2人の若手、フィンランド出身のマケラが音楽監督として、またイスラエル出身のシャニが首席指揮者としてそれぞれ率いて来るパリ管とロッテルダム・フィルが聴きものだろう。庄司が満を持して弾くベートーヴェンにも注目。なお公演は他にもあり、プログラムも各種ある。

先月のピカイチ

◆◆4月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈ルネ・ヤーコプス指揮 ヘンデル:オラトリオ「時と悟りの勝利」〉

4月4日(金)東京オペラシティ コンサートホール

ルネ・ヤーコプス(指揮)/カテリーナ・カスパー(快楽)/スンヘ・イム(美)/ポール・フィギエ(悟り)/トーマス・ウォーカー(時)/ビー・ロック・オーケストラ

次点

〈東京・春・音楽祭2025 J・シュトラウスⅡ世「こうもり」〉

4月18日(金)東京文化会館 大ホール

ジョナサン・ノット(指揮)/アドリアン・エレート(アイゼンシュタイン)/アニタ・ハルティヒ(ロザリンデ)/ソフィア・フォミナ(アデーレ)/ドヴレト・ヌルゲルディエフ(アルフレート)/マルクス・アイヒェ(ファルケ博士)/アンジェラ・ブラウアー(オルロフスキー公爵)他/東京交響楽団/東京オペラシンガーズ

J・シュトラウスⅡ世:喜歌劇「こうもり」(演奏会形式)

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~作品の真髄を実感 ヤーコプスの「時と悟りの勝利」~

「イチオシ」で挙げた2公演をはじめ好演は多々あったが、予想以上の快演に驚かされたのがヤーコプス指揮のヘンデル。その的確な音楽作りと(古楽とは思えないほど)達者なオーケストラに、艶やかな声で歌い交わす独唱陣が相まって、馴染みの薄いヘンデル最初のオラトリオの真髄を実感させられた。東京春祭の「こうもり」は、雄弁かつ躍動的なノットの指揮が秀逸。歌劇の管弦楽の魅力を伝える演奏会形式の美点が存分に発揮された。

来月のイチオシ

◆◆6月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈NHK交響楽団 第2039回定期演奏会〉

6月7日(土)、8日(日)NHKホール

ウラディーミル・フェドセーエフ(指揮)/ユリアンナ・アヴデーエワ(ピアノ)

リムスキー・コルサコフ:歌劇「5月の夜」序曲/ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲/チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」

御年93歳のフェドセーエフが振るロシア・プログラムも話題

次点

〈神奈川フィルDramatic Series 楽劇「ラインの黄金」〉

6月21日(土)横浜みなとみらいホール

沼尻竜典(指揮)/青山貴(ヴォータン)/黒田祐貴(ドンナー)/チャールズ・キム(フロー)/澤武紀行(ローゲ)/妻屋秀和(ファーゾルト)/斉木健詞(ファフナー)/志村文彦(アルベリヒ)/高橋淳(ミーメ)/谷口睦美(フリッカ)/八木寿子(エルダ)他/神奈川フィルハーモニー管弦楽団

ワーグナー:楽劇「ニーベルングの指輪」序夜「ラインの黄金」(セミ・ステージ形式)

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~フェドセーエフで至芸のロシア音楽を~

今年93歳を迎えるフェドセーエフ指揮の公演は、23年秋の来日が流れてしまったがゆえに、今度こそ実現して欲しいとの思いしきり。実演がレアなリムスキー=コルサコフの序曲やN響では初演奏となる「悲愴」など、最長老が魅せるロシア音楽の至芸をぜひとも体感したい。また沼尻指揮のオペラは常に高水準。今回の「ラインの黄金」も、彼のびわ湖ホールでの実績、及び23年神奈川フィルとの「サロメ」の快演等から期待は大きい。

先月のピカイチ

◆◆4月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈東京・春・音楽祭2025 ベートーヴェン「ミサ・ソレムニス」〉

4月4日(金)東京文化会館 大ホール

マレク・ヤノフスキ(指揮)/アドリアナ・ゴンサレス(ソプラノ)/ターニャ・アリアーネ・バウムガルトナー(メゾ・ソプラノ)/ステュアート・スケルトン(テノール)/タレク・ナズミ(バス)/NHK交響楽団/東京オペラシンガーズ

「パルジファル」に続き、「ミサ・ソレムニス」でも聴き手を魅了したヤノフスキ (C)増田雄介/東京・春・音楽祭2025
「パルジファル」に続き、「ミサ・ソレムニス」でも聴き手を魅了したヤノフスキ (C)増田雄介/東京・春・音楽祭2025

同率次点

〈東京交響楽団 名曲全集 第206回〉

4月6日(日)ミューザ川崎シンフォニーホール

ジョナサン・ノット(指揮)

ブルックナー:交響曲第8番(第1稿/ノーヴァク版)

同率次点

〈NHK交響楽団 第2036回定期公演Aプログラム〉

4月27日(日)NHKホール

ファビオ・ルイージ(指揮)/オレシア・ペトロヴァ(メゾ・ソプラノ)/東京オペラシンガーズ/NHK東京児童合唱団

マーラー:交響曲第3番

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~強い説得力を発揮した「ミサ・ソレムニス」~

結局またヤノフスキ、というよりは「ミサ・ソレムニス」の巨大な音楽にハマってしまった。今の世界情勢を考えれば考えるほど、ベートーヴェンが音楽を通じて訴えた理想や祈りが強い説得力を発揮する。独唱も合唱もそろい、久しぶりに良い演奏を聴いた。ノットのブルックナーは、東京交響楽団との長期の共同作業がいよいよ豊穣な収穫期に入ったことを思わせた。ルイージ指揮N響のマーラーは欧州ツアー仕様の充実ぶり。

来月のイチオシ

◆◆6月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈パリ管弦楽団 日本公演〉

6月18日(水)ミューザ川崎シンフォニーホール

クラウス・マケラ(指揮)

サン=サーンス:交響曲第3番「オルガン付」/ベルリオーズ:幻想交響曲

次点

〈日本フィルハーモニー交響楽団 第771回東京定期演奏会〉

6月6日 (金)、7日(土)サントリーホール

ガボール・タカーチ=ナジ(指揮)/ミクローシュ・ペレーニ(チェロ)

ドヴォルザーク:チェロ協奏曲/ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲/モーツァルト:交響曲第41番「ジュピター」

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~マケラ&パリ管ふたたび~

今年29歳のマケラ。2021年から音楽監督を務めるパリ管弦楽団との2022年日本ツアーは大きな成功を収めた。今回はサン=サーンス 交響曲第3番「オルガン付」にベルリオーズ「幻想交響曲」とフランス系交響曲の超ポピュラー作品2つを1晩で聴けるのがうれしい。弦楽四重奏団のリーダーやコンサートマスターを経て指揮に転じたタカーチ=ナジが日本で初めて、フル編成のシンフォニー・オーケストラを振るのも注目。

先月のピカイチ

◆◆4月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈東京・春・音楽祭2025 リッカルド・ムーティ指揮 東京春祭オーケストラ〉

4月11日(金)東京文化会館 大ホール

ヴェルディ:歌劇「ナブッコ」序曲/マスカーニ:歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲/レオンカヴァッロ:歌劇「道化師」間奏曲/ジョルダーノ:歌劇「フェドーラ」間奏曲/カタラーニ:コンテンプラツィオーネ/レスピーギ:交響詩「ローマの松」他

イタリア音楽の魅力を掘り下げたムーティ&東京春祭オケ (C)池上直哉 / 東京・春・音楽祭2025
イタリア音楽の魅力を掘り下げたムーティ&東京春祭オケ (C)池上直哉 / 東京・春・音楽祭2025

次点

〈広上淳一&日本フィル「オペラの旅」Vol.1〉

4月27日(日)サントリーホール

広上淳一(指揮)/高島勲(演出)/宮里直樹(リッカルド)/中村真理(アメーリア)/池内響(レナート)/盛田麻央(オスカル)/福原寿美枝(ウルリカ)他/日本フィルハーモニー交響楽団/東京音楽大学(合唱)

ヴェルディ:歌劇「仮面舞踏会」(セミ・ステージ形式)

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~未来に通ずるムーティ&春祭オケ×広上&日フィル~

ムーティと東京春祭オケの前半はイタリア・オペラの序曲や間奏曲集、歌がなくても音楽そのものでドラマを体現するというマエストロの信念が若手奏者たちにしかと伝わり、マスカーニの甘美な旋律の奥にここまで深い感情表現があることに感服した。今秋開催の「アカデミー」にも期待。広上&日フィルのオペラの旅、第1弾はオーケストラを囲むステージングで歌手、管弦楽、合唱が音楽的にも視覚的にも見事に融合。好スタートを切った。

来月のイチオシ

◆◆6月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈NHK交響楽団 第2039回定期演奏会〉

6月7日(土)、8日(日)NHKホール

ウラディーミル・フェドセーエフ(指揮)/ユリアンナ・アヴデーエワ(ピアノ)

リムスキー・コルサコフ:歌劇「5月の夜」序曲/ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲/チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」

次点

〈読売日本交響楽団 横浜マチネーシリーズ/名曲シリーズ〉

6月22日(日)横浜みなとみらいホール/24日(火)サントリーホール

セバスティアン・ヴァイグレ(指揮)/アウグスティン・ハーデリヒ(ヴァイオリン)

スメタナ:歌劇「売られた花嫁」序曲/チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲/ドヴォルザーク:交響曲第7番

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~ロシアの巨星、フェドセーエフの「悲愴」~

今年93歳になるロシアの巨匠、フェドセーエフがN響で指揮するのは王道とも言えるロシアものだ。18年の「くるみ割り人形」では雄大なサウンドを聴かせたが、チャイコフスキーの「悲愴」では、今のN響とどんな音楽を創り上げるのか、是非とも見届けたい。
読響には世界最高峰のヴァイオリニスト、ハーデリヒが初登場、チャイコフスキーの協奏曲を披露する。ヴァイグレのドヴォルザークと共に、名曲に新風を吹き込むことだろう。

先月のピカイチ

◆◆4月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈東京・春・音楽祭2025 リッカルド・ムーティ指揮 東京春祭オーケストラ〉

4月11日(金)東京文化会館 大ホール

ヴェルディ:歌劇「ナブッコ」序曲/マスカーニ:歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲/レオンカヴァッロ:歌劇「道化師」間奏曲/ジョルダーノ:歌劇「フェドーラ」間奏曲/カタラーニ:コンテンプラツィオーネ/レスピーギ:交響詩「ローマの松」他

次点

〈NHK交響楽団 第2036回定期公演Aプログラム〉

4月26日(土)NHKホール

ファビオ・ルイージ(指揮)/オレシア・ペトロヴァ(メゾ・ソプラノ)/東京オペラシンガーズ/NHK東京児童合唱団

マーラー:交響曲第3番

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~ムーティ&東京春祭オケ 圧巻のイタリア・プロ~

4月は名演、熱演が目白押しで迷ったが、やはりムーティと東京春祭オケによる圧巻のイタリア・プロをピカイチに、次点はマーラー・フェスの演目ということもありルイージの気迫漲(みなぎ)る熱演が際立ったN響A定期とした。詳細は速リポ(速リポ| CLASSICNAVI)に拙稿をアップ済なのでご覧いただきたい。東京春祭・ノット&東響「こうもり」、パーヴォ&N響定期、広上&日フィルの「仮面舞踏会」も捨てがたい高水準の公演だった。

来月のイチオシ

◆◆6月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈バーミンガム市交響楽団 日本公演〉

6月30日(月)東京オペラシティ コンサートホール

山田和樹(指揮)/シェク・カネー=メイソン(チェロ)

ショスタコーヴィチ:祝典序曲/エルガー:チェロ協奏曲/ムソルグスキー(ヘンリー・ウッド編):組曲「展覧会の絵」

まもなくベルリン・フィル デビューも果たす山田和樹がバーミンガム市交響楽団と来日
まもなくベルリン・フィル デビューも果たす山田和樹がバーミンガム市交響楽団と来日

次点

〈パリ管弦楽団 日本公演〉

6月19日(木)、20日(金)サントリーホール

クラウス・マケラ(指揮)

(19日)サン=サーンス:交響曲第3番「オルガン付」、ベルリオーズ:幻想交響曲

(20日)ラヴェル:「クープランの墓」「マ・メール・ロワ」/ムソルグスキー(ラヴェル編):展覧会の絵

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~手兵を率いた2オケの〝競演〟~

世界の若手・中堅指揮者のトップランナー、山田和樹とクラウス・マケラによる手兵を率いての〝競演〟をイチオシと次点に挙げた。山田はベルリン・フィルとの初共演、ベルリン・ドイツ響首席指揮者就任決定直後の凱旋公演。一方のマケラもシカゴ響との共同作業が本格化し、両者ともに勢いに乗っているところ。双方、「展覧会の絵」を取り上げるが、マケラがラヴェル版、山田が英国の指揮者ヘンリー・ウッド版という好対照も興味深い。

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