山田和樹の手腕、オケの特性が際立ったモンテカルロ・フィル……24年5月

山田がモンテカルロ・フィルを率いて8年目、両者では初の来日公演を果たした (C)松尾淳一郎
山田がモンテカルロ・フィルを率いて8年目、両者では初の来日公演を果たした (C)松尾淳一郎

今回の「先月のピカイチ、来月のイチオシ」は5月のステージからピカイチを、7月に開催予定の公演からイチオシを選者の皆さんに挙げていただきました。名演が目白押しだった5月、皆さんはどの公演をチョイスしたのでしょうか。

先月のピカイチ

◆◆24年5月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団 日本公演〉

5月27日(月)サントリーホール

山田和樹(指揮)/藤田真央(ピアノ)

ベートーヴェン:序曲「コリオラン」、ピアノ協奏曲第3番/ベルリオーズ:幻想交響曲

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〈大阪フィルハーモニー交響楽団 第578回定期演奏会〉

5月18日(土)フェスティバルホール

尾高忠明(指揮)/アンヌ・ケフェレック(ピアノ)

モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番/シベリウス:組曲「レンミンカイネン」

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~圧巻のモンテカルロ・フィル、神秘的な大阪フィル~

イチオシ・次点で挙げたのと結果的に同じになってしまったが、しかし、モンテカルロ・フィルを縦横に引きずり回し、微細かつ壮麗な「幻想交響曲」をつくり出した山田和樹の指揮と、矢代秋雄のカデンツァを使うなどして「3番」に叙情的な美しさを与えた藤田真央のソロを含むこの日の演奏は圧巻だったし、尾高忠明が大阪フィルを指揮して聴かせた「レンミンカイネン」組曲の重厚で神秘的な迫力もまた実に魅力的だったのである。

来月のイチオシ

◆◆7月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈フェスタ サマーミューザKAWASAKIオープニングコンサート〉

7月27日(土)ミューザ川崎シンフォニーホール

ジョナサン・ノット(指揮)/東京交響楽団

チャイコフスキー:交響曲第2番「ウクライナ(小ロシア)」(1872年初稿版)、交響曲第6番「悲愴」

※完売

国内オケでも一層の充実ぶりを示すノット&東京響=昨年のフェスタ サマーミューザ オープニングより (C)N.Ikegami
国内オケでも一層の充実ぶりを示すノット&東京響=昨年のフェスタ サマーミューザ オープニングより (C)N.Ikegami

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〈京都市交響楽団 第691回定期演奏会〉

7月27日(土)京都コンサートホール

沖澤のどか(指揮)/上原彩子(ピアノ)

プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番/ストラヴィンスキー:バレエ曲「ペトルーシュカ」(1947年版)

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~いずれも魅力、東西2公演の同日公演~

同日に東西で開催される2つの演奏会を挙げる。ノットの指揮するチャイコフスキーは、所謂(いわゆる)チャイコフスキーらしからぬチャイコフスキーで、端整で几帳面、過度な激昂(げっこう)を排除した剛直なスタイルだが、これがまた一種新鮮な魅力を放射している。一方、沖澤のどかと京響は、先日のプロコフィエフの「ロメ&ジュリ」での圧倒的で躍動的な演奏に震撼させられたので、今度の「ペトルーシュカ」のような曲もきっと素晴らしいだろうと。

先月のピカイチ

◆◆24年5月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈上野通明 無伴奏チェロ・リサイタル〉

5月24日(金)サントリーホール

黛敏郎:BUNRAKU/松村禎三:祈禱歌/森円花:Phoenix(上野通明委嘱)/團伊玖磨:無伴奏チェロ・ソナタ/武満徹:エア/藤倉大:Uzu(渦)(上野通明委嘱/世界初演)

邦人の無伴奏作品のみでリサイタルを開催、その真価を伝えた上野通明 Photo by Kenichi Kurosaki
邦人の無伴奏作品のみでリサイタルを開催、その真価を伝えた上野通明 Photo by Kenichi Kurosaki

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〈モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団 日本公演〉

5月27日(月)サントリーホール

山田和樹(指揮)/藤田真央(ピアノ)

ベートーヴェン:序曲「コリオラン」、ピアノ協奏曲第3番/ベルリオーズ:幻想交響曲

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~〝感嘆〟の一言に尽きる上野通明の技量~

サントリーホールの大ホールで、邦人の無伴奏曲のみを全曲暗譜で弾き切った上野通明のリサイタルは、まさに圧巻! 研ぎ澄まされた集中力で楽曲の特質を雄弁に表現したそのパフォーマンスには、「感嘆した」という以外に言葉がなく、上野の破格の技量を改めて実感させられた。モンテカルロ・フィルは、オーケストラのラテン系の音色と山田和樹&藤田真央の大胆なアプローチが光彩を放った、エキサイティングで愉しいコンサート。

来月のイチオシ

◆◆7月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈東京二期会オペラ劇場 プッチーニ「蝶々夫人」〉

7月18日(木)、19日(金)、20日(土)、21日(日)東京文化会館

ダン・エッティンガー(指揮)/宮本亞門(演出)/大村博美、高橋絵理(蝶々夫人)/花房英里子、小泉詠子(スズキ)/城宏憲、古橋郷平(ピンカートン)他/東京フィルハーモニー交響楽団/二期会合唱団

宮本亞門が演出を手がけた「蝶々夫人」。エッティンガーの音楽づくりも注目される=2019年日本公演より 写真提供:公益財団法人東京二期会 撮影:三枝近志
宮本亞門が演出を手がけた「蝶々夫人」。エッティンガーの音楽づくりも注目される=2019年日本公演より 写真提供:公益財団法人東京二期会 撮影:三枝近志

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〈フェスタ サマーミューザKAWASAKIオープニングコンサート〉

7月27日(土)ミューザ川崎シンフォニーホール

ジョナサン・ノット(指揮)/東京交響楽団

チャイコフスキー:交響曲第2番「ウクライナ(小ロシア)」(1872年初稿版)、交響曲第6番「悲愴」

※完売

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~「蝶々夫人」に聴く、エッティンガー&東京フィルのコラボ~

二期会の「蝶々夫人」は、エッティンガー&東京フィルの久々の本格コラボに着目したい。彼が同楽団のシェフ時代に聴かせた重層的で濃密なサウンド、近年の両者のオペラ実績、最近稀なドイツ地盤の指揮者と東京フィルの顔合わせなど、期待の要素が目白押し。ブルックナー等を披露する定期も含めて共演自体が興味津々だ。ノット&東響のチャイコフスキーは、昨年の3、4番のスタイリッシュな快演から、ぜひとも結果を見届けたい。

先月のピカイチ

◆◆24年5月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈札幌交響楽団 第661回定期演奏会〉

5月25日(土)、26日(日)札幌コンサートホール Kitara

井上道義(指揮)/北村朋幹(ピアノ)

武満徹:「地平線のドーリア」-17の弦楽器奏者のための/同:「アステリズム」-ピアノとオーケストラのための/クセナキス:ノモス・ガンマ/ラヴェル:ボレロ

井上の札響との最後の共演となった5月定期公演。ソリスト北村も鮮やかに魅了 (C) 札幌交響楽団 撮影:札幌交響楽団
井上の札響との最後の共演となった5月定期公演。ソリスト北村も鮮やかに魅了 (C) 札幌交響楽団 撮影:札幌交響楽団

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〈読売日本交響楽団 第672回名曲シリーズ〉

5月31日(金)サントリーホール

ステファニー・チルドレス(指揮)/鳥羽咲音(チェロ)

シベリウス:交響詩「フィンランディア」/エルガー:チェロ協奏曲/ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界から」

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~引退間近の井上&札響による異様な名演~

2024年1年間に40数回の〝引退興行〟をブッキングした井上道義。札響と都響(30日)それぞれの最後の共演が重なった5月最終週は最も過酷な日程だった。札幌では後半のクセナキス、ラヴェルの異様な名演だけでなく、鬼才・北村朋幹の武満徹が精彩を放った。読響を振るため初来日した英国の女性指揮者チルドレスは25歳ながら堂々と自らの音楽を打ち出し、日本の同世代との激しい落差に衝撃を受けた。

来月のイチオシ

◆◆7月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈プラハ放送交響楽団 「わが祖国」全曲演奏会〉

7月9日(火)高崎芸術劇場 大劇場

ペトル・ポペルカ(指揮)

スメタナ:交響詩「わが祖国」

2022年から首席指揮者&芸術監督を務めるポペルカ&プラハ放送響が高崎公演ではスメタナの「わが祖国」全曲に挑む  (C)Prague Radio Symphony Orchestra
2022年から首席指揮者&芸術監督を務めるポペルカ&プラハ放送響が高崎公演ではスメタナの「わが祖国」全曲に挑む  (C)Prague Radio Symphony Orchestra

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〈東京フィルハーモニー交響楽団 第1003回サントリー定期〉

7月29日(月)サントリーホール

ダン・エッティンガー(指揮)/阪田知樹(ピアノ)

モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番/ブルックナー:交響曲第4番「ロマンティック」(ノヴァーク版)

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~注目指揮者、ポペルカ率いるプラハ放送響の「わが祖国」全曲~

2024/25年シーズンからウィーン交響楽団首席指揮者に就くチェコ人指揮者ペトル・ポペルカ(1986~)が現在音楽監督を務めるプラハ放送響と来日。スメタナの交響詩「我が祖国」全曲を演奏するのは高崎芸術劇場だけ。素晴らしいホールでもあり、遠出の価値はある。ダン・エッティンガーは10年ぶりの東京フィル定期登場。このところ傾倒するブルックナーで円熟を問う。

先月のピカイチ

◆◆24年5月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈読売日本交響楽団 第638回定期演奏会〉

5月21日(火)サントリーホール

ユライ・ヴァルチュハ(指揮)/エリザベス・デション(メゾ・ソプラノ)/国立音楽大学(女声合唱)/東京少年少女合唱隊(児童合唱)

マーラー:交響曲第3番

ヴァルチュハのオペラ指揮者としての手腕も垣間見えた読響定期 (C)読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
ヴァルチュハのオペラ指揮者としての手腕も垣間見えた読響定期 (C)読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

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〈クリストフ・プレガルディエン&ミヒャエル・ゲース リーダー・アーベント〉

5月24日(金)トッパンホール

クリストフ・プレガルディエン(テノール)/ミヒャエル・ゲース(ピアノ)

J・S・バッハ:甘美な死よ、訪れてください/マーラー:「子供の不思議な角笛」より〝原光〟/シューマン:12の詩より「愛と歓びは捨て去るのです」/レーヴェ:3つのバラードより「魔王」/シューベルト:「白鳥の歌」より〝戦士の予感〟他

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~ヴァルチュハ、プレガルティエン&ゲース 作品の真髄あらわに~

華やかさより、作品の真髄で勝負する2つの演奏会が印象に残った。読響を振ったヴァルチュハの指揮は、マーラーの3番で楽章を追う毎に高い次元に移っていく世界観を音楽で見せてくれる。オペラ劇場での経験も存分に活かされ、外連味(けれんみ)なしで第6楽章を開花させる指揮が深い余韻を生んだ。プレガルティエンとゲースは「生と死」というテーマでバッハとマーラーが繋がる曲構成の妙など、どこまでもドラマティックな二人による至福の時。

来月のイチオシ

◆◆7月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈東京都交響楽団 第1003回定期演奏会B・都響スペシャル〉

7月4日(木)、5日(金)サントリーホール

ヤクブ・フルシャ(指揮)/五明佳廉(ヴァイオリン)

ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番/ブルックナー:交響曲第4番「ロマンティック」(コーストヴェット:1878/80年)

2025年から英国ロイヤル・オペラの音楽監督にも就任するフルシャが、7年振りに都響の指揮台へ (C) Andreas Herzau
2025年から英国ロイヤル・オペラの音楽監督にも就任するフルシャが、7年振りに都響の指揮台へ (C) Andreas Herzau

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〈東京交響楽団 第722回定期演奏会〉

7月20日(土)サントリーホール

ジョナサン・ノット(指揮)

ラヴェル:クープランの墓(管弦楽版)/ブルックナー:交響曲第7番

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~ブルックナーの響宴 フルシャ×都響、ノット×東響~

2010年から8年間都響の首席客演指揮者だったフルシャが7年ぶりに指揮台に上がる。ブルックナーの第4番は、現在首席指揮者を務めるバンベルク響と3つの改訂稿を録音したというだけに、そのタクトに注目したい。バンベルク響ではフルシャの前任指揮者でもあったノットが振るのは第7番。10年音楽監督を務める東響とは演奏会形式のオペラでも話題になっているだけに、その成果をブルックナーでも聴かせてくれるだろう。

先月のピカイチ

◆◆24年5月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団 日本公演〉

5月27日(月)サントリーホール

山田和樹(指揮)/藤田真央(ピアノ)

ベートーヴェン:序曲「コリオラン」、ピアノ協奏曲第3番/ベルリオーズ:幻想交響曲

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〈ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団 東京公演〉

5月15日(水)サントリーホール

ドミンゴ・インドヤン(指揮)/辻井伸行(ピアノ)

ウォルトン:喜劇的序曲「スカピーノ」/ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番/チャイコフスキー:交響曲第5番

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~オケの特性が生きた2つの海外オーケストラ公演~

井上&都響のショスタコーヴィチ、ヴァルチュハ&読響のマーラー、ウォン&日フィルのマーラーもピカイチ級の名演だった。迷った末、海外オケの日本公演2件を選んだ。ピカイチの山田&モンテカルロについては速リポでアップした拙稿(山田和樹指揮 モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団 日本公演 | CLASSICNAVI)をご覧いただきたい。次点チョイスの理由はインドヤンのしなやかな感性と美しくバランスの取れたオケの響きに感銘を受けたから。

来月のイチオシ

◆◆7月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈久石譲 フューチャー・オーケストラ・クラシックス Vol. 7〉

7月31日(水) 、8月1日(木)サントリーホール

久石譲(指揮)/エラ・テイラー(ソプラノ)/東京混声合唱団/フューチャー・オーケストラ・クラシックス(管弦楽)

久石譲:ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド/ライヒ:砂漠の音楽(オリジナル編成版〝1984〟全曲 日本初演)

自ら立ち上げたフューチャー・オーケストラ・クラシックスとともに自作品とライヒの初演作品を披露する久石譲 (C) Nick Rutter
自ら立ち上げたフューチャー・オーケストラ・クラシックスとともに自作品とライヒの初演作品を披露する久石譲 (C) Nick Rutter

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〈プラハ放送交響楽団 東京公演〉

7月11日(木)サントリーホール、13日(土)東京オペラシティ コンサートホール

ペトル・ポペルカ(指揮)/三浦文彰(ヴァイオリン、11日)/佐藤晴真(チェロ、13日)

11日)スメタナ:連作交響詩「わが祖国」より〝モルダウ〟/ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲/同:交響曲第9番「新世界より」

13日)ドヴォルザーク:チェロ協奏曲/スメタナ:連作交響詩「わが祖国」より〝高き城〟〝シャールカ〟〝ボヘミアの森と草原から〟〝ターボル〟〝ブラニーク〟

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~ファン垂涎(すいぜん)、ライヒ初演を含む久石のミニマル・ミュージック~

作曲家で指揮者としても活躍中の久石譲がミニマル音楽に取り組む。その第1弾となる公演が7月から8月にかけて2演目4公演開催される。イチオシはこの分野の巨匠ライヒの作品の日本初演と自身の作品を披露する後半の公演。ファン垂涎のステージになりそうだ。次点は今秋、ウィーン響首席指揮者に就任するなど注目を集めるチェコの新鋭ポペルカと手兵プラハ放送響との東京公演。オール・チェコ作品でその実力を披露する。

 

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