夏の音楽祭シーズンも終盤、いよいよ芸術の秋の到来です。今月は7月のステージからピカイチを、9月に開催予定の公演からイチオシを筆者の皆さんに紹介していただきました。
先月のピカイチ
◆◆7月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選
〈東京フィルハーモニー交響楽団 ヴェルディ「オテロ」演奏会形式〉
7月31日(月)サントリーホール
チョン・ミョンフン(指揮)/ グレゴリー・クンデ(オテロ)/小林厚子(デズデーモナ)/ダリボール・イェニス(イアーゴ)/新国立劇場合唱団、他
次点
〈東京二期会オペラ劇場 ヴェルディ「椿姫」〉
7月17日(月)東京文化会館大ホール
アレクサンダー・ソディー(指揮)/種谷典子(ヴィオレッタ)/山本耕平(アルフレード)/黒田博(ジェルモン)/読売日本交響楽団、他
コメント
~ヴェルディのオペラ音楽の魅力を満喫!~
6月の「イチオシ」で挙げたチョン・ミョンフン&東京フィルの「オテロ」は、期待に違わぬ名演。ドラマチックで振幅や抑揚が絶妙なチョン・ミョンフンが、オペラ指揮者としての辣腕(らつわん)を発揮し、東京フィルが全力でそれに応え、歌手陣(特に男声2人の表現が圧巻)が表情豊かに歌う……演奏会形式ならではのオペラ〝音楽〟を満喫した。次点には、ソディーの清新で引き締まった指揮ぶりと読響の好演が特に光った二期会「椿姫」を。
来月のイチオシ
◆◆9月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選
〈庄司紗矢香 「フランスの風」〉
9月25日(月)サントリーホール 他
庄司紗矢香(ヴァイオリン)/モディリアーニ弦楽四重奏団/ベンジャミン・グローヴナー(ピアノ)
武満徹:妖精の距離/ドビュッシー:ヴァイオリン・ソナタ/ラヴェル:弦楽四重奏曲/ショーソン:ヴァイオリン、ピアノと弦楽四重奏のための協奏曲
次点
〈京都市交響楽団 東京公演〉
9月24日(日)サントリーホール
沖澤のどか(指揮)
ベートーヴェン:交響曲第4番/コネソン:管弦楽のための「コスミック・トリロジー」※日本初演
コメント
~日本人女性音楽家の深化に注目!~
昨年ピリオド仕様の古典派音楽で驚嘆させた庄司紗矢香が、今度はフランスのトップ・カルテット及びイギリスのスター・ピアニストと共に、近代フランスを軸にした室内楽を披露する。これは、庄司が新境地とたゆまぬ進化を明示する、大注目の公演だ。プログラム内容も凝っており、中でもショーソンの名作をこのクラスの演奏で味わえるのは貴重。敏腕・沖澤のどか&高品質・京都市響の新コンビの東京初お目見えもむろん見逃せない。
先月のピカイチ
◆◆7月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選
〈東京フィルハーモニー交響楽団 ヴェルディ「オテロ」演奏会形式〉
7月23日(日)Bunkamuraオーチャードホール
チョン・ミョンフン(指揮)/ グレゴリー・クンデ(オテロ)/小林厚子(デズデーモナ)/ダリボール・イェニス(イアーゴ)/新国立劇場合唱団、他
次点
〈東京都交響楽団 都響スペシャル(7/14)〉
7月14日(金)サントリーホール
アラン・ギルバート(指揮)/キリル・ゲルシュタイン(ピアノ)
ニールセン:序曲「ヘリオス」/同:交響曲第5番/ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番
コメント
~「オテロ」におけるチョンの老練、クンデの深化~
オーチャードで聴くチョン指揮、クンデ主演の「オテロ」は10年前のフェニーチェ歌劇場日本公演に比べ、格段に深い音楽となっていた。69歳とは思えない輝かしい高音もさることながら、終盤にかけての心理表現が素晴らしい。ゲルシュタインが独奏したラフマニノフの第3協奏曲は〝真打ち〟登場の趣。6月に挙げた兵庫の「ドン・ジョヴァンニ」は大西宇宙の題名役の見事さに感心した半面、佐渡裕の遅いテンポに違和感が残った。
来月のイチオシ
◆◆9月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選
〈NHK交響楽団 第1990回定期公演Cプログラム〉
9月15日(金)、16日(土)NHKホール
ファビオ・ルイージ(指揮)
ワーグナー(デ・フリーヘル編):楽劇「ニーベルングの指環」オーケストラル・アドベンチャー
次点
〈東京都交響楽団プロムナードコンサートNo.404〉
9月18日(月・祝)サントリーホール
ローレンス・レネス(指揮)/タベア・ツィンマーマン(ヴィオラ)
モーツァルト:クラリネット協奏曲(ヴィオラ版)/プロコフィエフ:バレエ「ロメオとジュリエット》より
コメント
~アナザー・バージョンの楽しみ~
聴き慣れた名曲の「アナザー・バージョン」の楽しみに焦点を当てた。デ・フリーヘル編の「リング」アドベンチャーは8月1日にヴァイグレ指揮読響がミューザ川崎で名演を披露したばかり。2つの楽団の聴き比べもよし、かつてメトロポリタン歌劇場で4部作を指揮したルイージのワーグナー解釈を知るもよし、である。タベアはモーツァルト「クラリネット協奏曲」のヴィオラ版を都響と相性のいいレネスとともに奏でる。
先月のピカイチ
◆◆7月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選
〈東京都交響楽団 都響スペシャル(7/14)〉
7月14日(金)サントリーホール
アラン・ギルバート(指揮)/キリル・ゲルシュタイン(ピアノ)
ニールセン:序曲「ヘリオス」/同:交響曲第5番/ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番
次点
〈日本フィルハーモニー交響楽団 第752回東京定期演奏会〉
7月7日(金)サントリーホール
広上淳一(指揮)/笛田博昭(カニオ)/池内 響(シルヴィオ)/竹多倫子(ネッダ)/小堀勇介(ペッペ)/上江隼人(トニオ)/東京音楽大学(合唱)、杉並児童合唱団、他
レオンカヴァッロ:歌劇「道化師」(演奏会形式)
コメント
~アラン・ギルバート×都響、培った信頼関係で想像を超える名演に~
首席客演指揮者のアラン・ギルバートが都響の指揮台に立つと明らかに彼にしか出せない音が聴こえる。今回はニールセンの光と影を際立たせる立体的な音作りや、後半ゲルシュタインをソロに迎えたラフマニノフの大編成オケを表情豊かにリードしピアノの美音と共に聴いたことのないシーンにいくつも出合った。日フィルで広上淳一が振った演奏会形式の「道化師」は、笛田、竹多、小堀らソリストとオケの呼応が劇的、合唱も見事だった。
来月のイチオシ
◆◆9月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選
〈読売日本交響楽団 第631回定期演奏会〉
9月12日(火)サントリーホール
マリオ・ヴェンツァーゴ(指揮)
スクロヴァチェフスキ:交響曲(生誕100年記念)※日本初演/ブルックナー:交響曲第4番「ロマンティック」(1878/80年稿・ノヴァーク版)
次点
〈NHK交響楽団 第1990回定期公演Cプログラム〉
9月15日(金)、16日(土)NHKホール
ファビオ・ルイージ(指揮)
ワーグナー(デ・フリーヘル編):楽劇「ニーベルングの指環」オーケストラル・アドベンチャー
コメント
~ブルックナーをつなぐヴェンツァーゴ読響&ワーグナー・オペラで本領発揮のルイージN響~
毎月のようにブルックナーの演目をこの項で挙げているが、9月もスイスの名匠マリオ・ヴェンツァーゴが読響で交響曲4番「ロマンティック」を振る。前半には当団のブルックナー演奏史に輝かしい功績を残したスクロヴァチェスキの交響曲を日本初演、ブルックナーファンには興味深い一夜となるだろう。N響では首席指揮者のファビオ・ルイージがワーグナーの「指輪」(フリーヘル編)でオペラ指揮者としての本領を発揮するのも注目だ。
先月のピカイチ
◆◆7月◆◆ 深瀬 満(音楽ジャーナリスト)選
〈東京フィルハーモニー交響楽団 ヴェルディ「オテロ」演奏会形式〉
7月31日(月)サントリーホール
チョン・ミョンフン(指揮)/ グレゴリー・クンデ(オテロ)/小林厚子(デズデーモナ)/ダリボール・イェニス(イアーゴ)/新国立劇場合唱団、他
次点
〈調布国際音楽祭2023 バッハ・コレギウム・ジャパン〉
7月1日(土)、2日(日)調布市文化会館たづくり くすのきホール
鈴木優人(指揮、チェンバロ)/佐藤俊介(ヴァイオリン)
ヴィヴァルディ:「四季」/J・S・バッハ:管弦楽組曲第3番、第1番、他
コメント
~チョン・ミョンフンの「オテロ」 真にオペラティックな描出の連続~
チョン・ミョンフンは、やはりオペラハウスの人だ。もちろん歌手も好演だったが、東京フィルから引き出した劇的な色合いの豊かさ——身の毛もよだつ恐怖感から、おぞましい憎悪、ぱっと長調に転じた際の柔らかな幸福感まで、真にオペラティックな描出の連続に耳を奪われた。佐藤俊介は鈴木優人と同世代で、お互いに音楽祭へ呼び合うなど仲がいい。調布での「四季」は大胆な装飾や意表を突くテンポ、バルトーク・ピチカートに驚かされた。
来月のイチオシ
◆◆9月◆◆ 深瀬 満(音楽ジャーナリスト)選
〈サイ・プレイズ・シューベルト〉
9月13日(水)紀尾井ホール
ファジル・サイ(ピアノ)
シューベルト:ピアノ・ソナタ第19番ハ短調、第21番変ロ長調
次点
〈藤原歌劇団公演 「二人のフォスカリ」〉
9月9日(土)、10日(日)新国立劇場オペラパレス
田中祐子(指揮)/伊香修吾(演出)/上江隼人、押川浩士(フランチェスコ・フォスカリ)/藤田卓也、海道弘昭(ヤコポ・フォスカリ)/東京フィルハーモニー交響楽団、他
ヴェルディ:歌劇「二人のフォスカリ」
コメント
~サイのリサイタル、プログラムに見る決意~
ピアノの鬼才、ファジル・サイがシューベルトと自作曲による、二晩の連続演奏会に挑む。中でもシューベルト最晩年のソナタを2曲並べる第1夜は、作品の重みからして、奏者の「いま」を雄弁に示す真剣勝負となるだろう。こうした重量級のプログラムを組むに至った決意のほどを、確かめたい。藤原歌劇団が中心となる「二人のフォスカリ」はヴェルディ初期作に光を当てる新演出。国内の有力3団体の共催で、作品の真価が明らかになるか。
先月のピカイチ
◆◆7月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)
〈東京フィルハーモニー交響楽団 ヴェルディ「オテロ」演奏会形式〉
7月31日(月)サントリーホール
チョン・ミョンフン(指揮)/ グレゴリー・クンデ(オテロ)/小林厚子(デズデーモナ)/ダリボール・イェニス(イアーゴ)/新国立劇場合唱団、他
次点
〈読響アンサンブル・シリーズ「日下紗矢子リーダーによる室内合奏団」〉
7月28日(水)トッパンホール
日下紗矢子、岸本萌乃加(ヴァイオリン)/三浦克之(ヴィオラ)/遠藤真理(チェロ)/石川滋(コントラバス)/佐藤友美(フルート)/山本楓(オーボエ)/吉田将(ファゴット)/松坂隼(ホルン)他合計26人
ハイドン:交響曲第1番/同第80番/ヤナーチェク:弦楽四重奏曲第1番「クロイツェル・ソナタ」他
コメント
~「オテロ」を暗譜で チョンの余裕と自在さ露わに~
全曲を暗譜で振ったチョンからは作品とオケ、合唱を完全に掌中にしているかのような余裕と自在さが感じられ、しなやかでドラマチックな音楽作りは圧巻のひと言。題名役のクンデら歌手陣もチョンに導かれて感情を乗せた振幅の大きな表現で聴衆をシェークスピアの世界へと引き込んだ。次点は日下紗矢子を中心とした読響メンバーによるアンサンブル。古楽奏法を取り入れたハイドン、シャープな表現のヤナーチェクと日下の意識の高さとメンバーの技術力の確かさが光る快演だった。
来月のイチオシ
◆◆9月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)
〈ドイツ・グラモフォン創立125周年スペシャル・ガラ・コンサート〉
9月5日(火)サントリーホール
ジョン・ウィリアムズ、ステファン・ドゥネーヴ(指揮)/サイトウ・キネン・オーケストラ
ジョン・ウィリアムズ:映画「スター・ウォーズ」より、「ハリー・ポッター」より、「スーパーマン」より、他
次点
〈NHK交響楽団 第1989回定期公演Aプログラム〉
9月9日(土)、10日(日)NHKホール
ファビオ・ルイージ(指揮)/マルティン・ヘルムヒェン(ピアノ)
R・シュトラウス:交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」、ブルレスケニ短調、交響的幻想曲「イタリアから」
コメント
~ジョン・ウィリアムズ作品、当人の指揮でSKOとともに~
ウィーン・フィル、ベルリン・フィルへの登場でも話題を集めたジョン・ウィリアムズの作品は〝劇伴〟の域を超えて芸術的な普遍性を有するに至った。ウィリアムズ本人が腕利きのSKOから作品の魅力を存分に引き出してくれることが期待される。次点はルイージ&N響定期のR・シュトラウスのプロ。「ティル…」を除く2曲は取り上げられる機会があまり多くなく、特にピアノとティンパニとの掛け合いが面白いブルレスケに注目したい。