原田慶太楼がひと味ちがう「20世紀プロ」で有終の美を飾る
東京交響楽団の正指揮者を2021年から務めてきた原田慶太楼が3月末で任期満了となり、このポスト最後の定期演奏会に臨んだ。米国でキャリアを築き、複数のポストを持つ人だけに、音楽的なルーツの点でもアメリカ音楽との親和性は高い。指揮者の先達でもあるバーンスタインを軸に、同世代で交流の深かったコープランド、巨匠が得意としたレパートリーからショスタコーヴィチの交響曲第5番を並べる、ひと味違う「20世紀プロ」で有終の美を飾った。
コープランドの「アメリカの古い歌」は、19世紀の民謡や讃美歌をアレンジした合唱曲集。今回は第1集の5曲を東響コーラスが歌った。原田は耳になじむ懐かしい旋律に温かい情感を通わせ、米国の音楽語法に長じた強みを発揮。リズミカルな第1、2、5曲とじんわり染みる第3、4曲を手堅く対比させた。前者でぎこちなく身体を揺らしてリズムを取ったコーラスは、そちらに気を取られたのか、英語のテキストが不鮮明になる時があった。
続くバーンスタインの「チチェスター詩篇」は、大作の交響曲第3番「カディッシュ」の後に書かれた3楽章の声楽作品で、ユダヤ色が濃い。旧約聖書によるヘブライ語の歌詞がつく。木管を省く代わりに多彩な打楽器が活躍するゴージャスなサウンドを、原田はダイナミックに演出。変拍子を鮮やかに処理し、いかにもアメリカンな雰囲気を盛り上げた。第2楽章の歌詞には、米国とイスラエルによるイラン攻撃が続く中ではドキリとするような一節が現れるが、カウンターテナーの彌勒忠史による歌唱は滑らか。伸びの良い声で歌いきった。
良き時代の米国で生まれた2曲と対称をなす後半は、ショスタコーヴィチの人気作、交響曲第5番。バーンスタインは正規録音を2回残すほど好んでいた。共産圏の厳しい政治状況下で作曲されたが、原田はそうした文脈には深入りせず、若々しいエネルギーを率直に注ぎ込んだ。
したがって第1楽章の重い楽想は深刻ぶらず整然と展開され、クライマックスは壮快な力感にあふれた。第2楽章もスケルツォの毒は薄く、豪壮な音響体が鳴り響く。第3楽章のラルゴで痛切な歌や苦み走った叙情が自然とにじみ出し、作品の地が現れた。フィナーレではテンポを落としてじっくり踏みしめたコーダが効果的で、オーケストラが渾身(こんしん)の力演で応えた。
固定のポストからは外れたが、今後も原田は東響と関係を持ちたい意向で、登場の機会が巡ってきそうだ。
(深瀬満)
公演データ
東京交響楽団 第738回定期演奏会
3月28日(土) 18:00サントリーホール 大ホール
指揮:原田慶太楼
カウンターテナー:彌勒忠史
合唱:東響コーラス(合唱指揮:根本卓也)
管弦楽:東京交響楽団
コンサートマスター:小川ニキティングレブ
プログラム
コープランド:アメリカの古い歌(第1集)
バーンスタイン:チチェスター詩篇
ショスタコーヴィチ:交響曲 第5番 ニ短調 Op.47
他日公演
3月29日(日)17:00りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館コンサートホール(新潟)
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。










