沖澤のどか指揮 京都市交響楽団 第709回定期演奏会

〝モーツァルトの京響〟と高水準の歌手陣による愉しく心満たされた「コジ・ファン・トゥッテ」

今年、京都市交響楽団は創立70周年を迎えた。初代常任指揮者のカール・チェリウスは、1958年から二期会と組んで、京阪神及び東京で、モーツァルトのオペラ(「フィガロの結婚」「コジ・ファン・トゥッテ」「魔笛」)の上演に取り組んだ。そして、その演奏は、好評を得、「モーツァルトの京響」のイメージが全国的に浸透することとなった。それから70年近い年月を経て、第14代常任指揮者・沖澤のどかが、定期演奏会で「コジ・ファン・トゥッテ」を取り上げた。
演奏会形式上演であったが、個々の歌手による自発的な演技が加わり、歌唱をよりわかり易く楽しめるものとしていた。そして、桂米團治による関西弁での字幕が使われ、聴衆の自然な笑いを誘った。

モーツァルトの歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」(演奏会形式)。桂米團治による関西弁での字幕が聴衆の笑いを誘った ©京都市交響楽団
モーツァルトの歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」(演奏会形式)。桂米團治による関西弁での字幕が聴衆の笑いを誘った ©京都市交響楽団

フィオルディリージの隠岐彩夏はとても澄んだ美声。ドラベッラの山下裕賀は温かみのある深いメゾで、同時に役柄にふさわしい若々しさもある。最初の姉妹の二重唱からその見事さに驚く。おそらく今、国内最高レベルのデュオであろう。隠岐は「岩のように動ぜず」では芯の強さも示す。フェランドの糸賀修平は少し硬質な声がよく通る。グリエルモの大西宇宙は、自然な演技と説得力のある歌唱が圧倒的。ドラベッラとの二重唱が圧巻であった。また、第15曲として、ウィーン初稿の長いアリアK.584を歌ったのも興味深かった(そこでの桂米團治の、歌舞伎俳優の名前などを用いて和テイストに翻案した字幕も面白かった)。デスピーナの鵜木絵里は、コミカルな演唱と言葉の捌(さば)き、声色の変化が秀逸。女の処世術を説くアリアでは、そんな女性が今の日本にもいることを想起させられた。ドン・アルフォンソの宮本益光はまさに芸達者。全体の演技をリード。キャスト全員が歌唱も演技も高水準で、正味3時間をまったく飽きさせなかった。

キャスト全員が歌唱も演技も高水準 ©京都市交響楽団
キャスト全員が歌唱も演技も高水準 ©京都市交響楽団

沖澤は、序曲から快適なテンポで進め、オーケストラもスムーズに応える。オペラに入っても、沖澤は良いテンポで俊敏な音楽を作り上げていく。最初の五重唱での推進力のある音楽が心に刺さる。今回は、オーケストラがピットではなく舞台上で演奏するので、歌手の声量とのバランスが考慮され、8型(第1ヴァイオリンが8名)という小振りの編成が採られていたが、それがちょうど良いバランスを作り上げていた。弦楽器(コンサートマスター:石田泰尚)は繊細で美しく、木管楽器はオペラのキャラクターのように歌う。チェンバロの石野真穂も特筆される。オーケストラが作品の機微を描いていたところに〝モーツァルトの京響〟を感じた。
(山田治生)

沖澤のどかは、序曲から快適なテンポで進め、オーケストラもスムーズに応えた ©京都市交響楽団
沖澤のどかは、序曲から快適なテンポで進め、オーケストラもスムーズに応えた ©京都市交響楽団

公演データ

京都市交響楽団 第709回定期演奏会

3月20日(金・祝)14:30京都コンサートホール 大ホール

指揮:沖澤 のどか

フィオルディリージ:隠岐彩夏
ドラベッラ:山下裕賀
フェランド:糸賀修平
グリエルモ:大西宇宙
デスピーナ:鵜木 絵里
ドン・アルフォンソ:宮本益光
合唱:京響コーラス(合唱指揮:森脇 涼)

字幕作成:桂 米團治

管弦楽:京都市交響楽団
コンサートマスター:石田泰尚

プログラム
モーツァルト:歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」 K.588
全2幕(演奏会形式)

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山田 治生

やまだ・はるお

音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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