ベルリン・フィル八重奏団

スーパー・グループならではの、作品の傑作性を明らかにした名演

ベルリン・フィル八重奏団が約3年ぶりに来日を果たした。名門の首席奏者らで作る同団は、弦楽四重奏にコントラバス、クラリネット、ホルン、ファゴットを加えた8人編成で、ミニ・ベルリン・フィルといった趣。第1ヴァイオリンは樫本大進が務め、ヴィオラのアミハイ・グロスやクラリネットのヴェンツェル・フックス、ホルンのシュテファン・ドールなど、単独でもお客を呼べる面々の集結に目を見はる。舞台では、並びの両端で向き合う樫本とフックスが事実上のツー・トップとなって、アンサンブルを引っ張った。

ベルリン・フィル八重奏団。並びの両端に立った樫本大進とヴェンツェル・フックスがアンサンブルを引っ張った ©︎池上直哉
ベルリン・フィル八重奏団。並びの両端に立った樫本大進とヴェンツェル・フックスがアンサンブルを引っ張った ©︎池上直哉

前半の冒頭、ドヴォルザーク「5つのバガテル」は元々、ヴァイオリンとチェロ、ハーモニウム(オルガンの一種)のために書かれた小品。この八重奏団のために編曲され、民俗色豊かな旋律が全編に漂う。名人集団には小手調べといったところで、余裕をもって端然としたハーモニーを紡いでいく。

続くベルリンで活躍した作曲家フーゴ・カウン(1863~1932)の八重奏曲ヘ長調は、後期ロマン派特有のメランコリーをたたえた20分ほどの秘曲。樫本がツアー用に見つけたお気に入りという。ドイツ的で重厚な作風ゆえ、合奏にも本家ベルリン・フィル的な性格が表れてくる。音の均質な溶け合いより、自発的な個人技の積み重ねによるソリッドな感触が前面に出て、瞬間的に目立つ〝ちょいソロ〟の独奏が雄弁。メリハリのある艶やかな音色を繰り出す樫本、消え入りそうな超弱音から角の立ったフォルテまで表現の幅が広いフックスなど、各人が個性を発揮した。

フーゴ・カウンの八重奏曲ヘ長調は、樫本がツアー用に見つけたお気に入りの曲 ©︎池上直哉
フーゴ・カウンの八重奏曲ヘ長調は、樫本がツアー用に見つけたお気に入りの曲 ©︎池上直哉

そして後半はシューベルトの八重奏曲ヘ長調。この曲を演奏するため1928年に集まった団体が当グループのルーツで、2017年に東京オペラシティで録音したCDを出すなど、縁は深い。適度にヴィブラートを用いるオーソドックスなスタイルを基本とするが、決してオーバーシュートせず、抑えの利いた落ち着きが古典的な均衡を示す。表情はさっぱりしていてウェットにならず、現代的な感覚も持ち合わせている。
したがって第1楽章の主部、アレグロでは自然なドライブ感が快適で、ヴィヴァーチェが加わる第3楽章はかったつな生命力にあふれる。いっぽう第2楽章アダージョではスムーズな歌が染みわたり、変奏曲形式の第4楽章アンダンテでは表情の変化が実に巧み。各メンバーがお互いを良く聴き合って、当意即妙にニュアンスを付けていくのが分かる。ミステリアスな序奏で始まる終楽章では、主部のアレグロに移る切り替えの解放感や愉悦の妙が格別で、この曲をすっかり手中に収めている様子がありあり。

いとも楽々と作品の傑作性を明らかにする名演は、このスーパー・グループならではで、改めて高い能力を思い知らされた。

(深瀬満)

スーパー・グループならではの名演を聴かせた ©︎池上直哉
スーパー・グループならではの名演を聴かせた ©︎池上直哉

公演データ

ベルリン・フィル八重奏団

2月26日(木) 19:00サントリーホール 大ホール

ヴァイオリン:樫本大進、ロマーノ・トマシーニ
ヴィオラ:アミハイ・グロス
チェロ:クリストフ・イゲルブリンク
コントラバス:エスコ・ライネ
クラリネット:ヴェンツェル・フックス
ホルン:シュテファン・ドール
ファゴット:シュテファン・シュヴァイゲルト

プログラム
ドヴォルザーク/ウルフ=グイド・シェーファー編:5つのバガテル(八重奏版)
フーゴ・カウン:八重奏曲 ヘ長調Op.34
シューベルト:八重奏曲 ヘ長調 Op.166 D.803

アンコール
シューベルト:「楽興の時」より第3番

これからの他日公演
3月 1 日(日)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール(神奈川)
※7名の特別編成にて演奏。出演者やプログラム等の詳細は、下記公式サイトをご参照ください。
https://kanagawa-geikyo.com/concert/concert-8237/

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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