尾高忠明指揮 大阪フィルハーモニー交響楽団 ザ・シンフォニーホール特別演奏会 ベートーヴェン・チクルス~原点にして頂点~ V

熱い興奮に包まれたベートーヴェン・チクルス最終回

2025年9月に始まった尾高忠明と大阪フィルによるベートーヴェン・ツィクルス(主催者表記=チクルス)も、いよいよ最終回。これまでこの速リポでも、交響曲「第5番」、「第6番」が演奏された第3回(2025年12月11日)と、「第7番」、「第8番」が演奏された第4回(2026年1月28日)がリポートされているが、今回は「第9番」が演奏された。

実は、筆者は初回の「第1番」と「第2番」を聴き、わずか2年の間のベートーヴェンの変化(耳の病の悪化など)や作曲家としての成長を、これほど演奏のみで明確に描き分け、表現できるものかと感銘を受けていただけに、このツィクルスが今回の「第9」でどのように帰着するか、見届けたいという想いがあった。

尾高忠明と大阪フィルハーモニー交響楽団によるベートーヴェン・ツィクルス最終回は「第9番」(C)飯島隆
尾高忠明と大阪フィルハーモニー交響楽団によるベートーヴェン・ツィクルス最終回は「第9番」(C)飯島隆

全体的に速めのテンポで、過剰な表現のない引き締まった演奏。だからと言って、ストイックな印象はなく、終始自然体の「歌」に貫かれていた。たとえば、解釈によっては精神性やメッセージ性を前面に出し、瞑想的、思索的な演奏になる緩徐楽章の第3楽章でも、テンポを速めに取り、自然な流れの中で演奏することによって純粋な「歌」が立ち現れる、というように、すべてが音楽、音を主体に進められた。また、楽章は前後するが、第2楽章のスケルツォでは、テンポが速いながらも4分の3拍子という拍子感を失わず、随所に優雅さも感じられるなど、尾高と大阪フィルが8年をかけて築いてきた表現の確かさを実感。と同時に、ベートーヴェン以前の交響曲では、本来第3楽章に当たる形式がメヌエットという舞曲で書かれていたことを思い起こさせ、演奏を通してハイドンやモーツァルトなどからつながる交響曲の歴史を再認識することとなった。

全体的に速めのテンポで、過剰な表現のない引き締まった演奏(C)飯島隆
全体的に速めのテンポで、過剰な表現のない引き締まった演奏(C)飯島隆

さらに、第4楽章では力のあるソリストが揃い、合唱もあたたかく厚みのあるハーモニーで歓びを歌い上げた。過剰な表現を排除し、楽譜と真摯に向き合った先に行き着いたのは、すべてが調和した世界。さまざまな音楽要素が登場しながらも、何か1つが突出することなく、指揮者を筆頭に、演奏者みながベートーヴェンに寄り添い、その音楽に音を通して仕えるという姿勢が最後まで貫かれ、クライマックスは熱い興奮に包まれた。何よりベートーヴェンの、そして「第9」という作品の、交響曲史という大きな流れの中での位置付けのようなものを、演奏を通して捉えられたことは望外の収穫。多くのブラボーの声が、このツィクルスの充実ぶりを証明しているようだった。

(堀内みさ)

第4楽章では力のあるソリストが揃い、合唱もあたたかく厚みのあるハーモニーで歓びを歌い上げた(C)飯島隆
第4楽章では力のあるソリストが揃い、合唱もあたたかく厚みのあるハーモニーで歓びを歌い上げた(C)飯島隆

公演データ

大阪フィルハーモニー交響楽団 ザ・シンフォニーホール特別演奏会
ベートーヴェン・チクルス~原点にして頂点~ V

2月23日(月・祝)14:00ザ・シンフォニーホール(大阪)

指揮:尾高忠明
ソプラノ:森谷真理
アルト:林 眞暎
テノール:村上公太
バス:平野 和
合唱:大阪フィルハーモニー合唱団(合唱指導:福島章恭)
管弦楽:大阪フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:須山暢大

プログラム
ベートーヴェン:交響曲第9番 ニ短調 Op.125「合唱付」

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堀内 みさ

ほりうち・みさ

音楽ライター。文筆家。20代から30代にかけて、毎年1カ月ほどバックパッカーでヨーロッパを旅し、主に立ち見でコンサートを聴きまくっているうちに、気がつけば物書きに。モットーはフィールドワークで、作曲家ゆかりの地を巡る連載なども担当。著書に「ショパン紀行」(東京書籍)「ブラームス『音楽の森へ』」(世界文化社)など。日本の音楽や伝統文化についての執筆を行う一面も。

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