ラヴェルから広がる波紋――他に類を見ないプログラムで作品の深い世界に迫った渾身のリサイタル
福間洸太朗は、20歳で日本人として初めてクリーヴランド国際コンクールで優勝し、国内外で精力的に活動を行なっている。
〝ラヴェルの波動〟と題されたリサイタル。ラヴェルに影響を受けたであろうルトスワフスキとシマノフスキの作品を選曲した、と福間はいう。ラヴェルの音楽の新たな本質を浮き彫りにするような、斬新なプログラムである。
福間の演奏は、冷静な知性と漲(みなぎ)る情熱に彩られている。昨年にアルベニス「イベリア」全曲で披露したように、彼は卓越した技巧と表現性を併せ持ち、作品の深部まで迫る演奏を聴かせてくれる。難曲が並べられたプログラムであるが、福間ならではの業(わざ)を堪能することができた。
プログラム冒頭は、ラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」。ペダルを絶妙にコントロールし、アーティキュレーションを明確に際立たせることで、作品をすっきりと描出する。典雅なリズムにのり、柔らかな音の呼吸を通して歌い上げるその演奏に、福間のあたたかな眼差しを感じる。
続いてラヴェル「ソナチネ」。曲中に何度も現われる第1楽章冒頭の四度のモティーフを、表情豊かに示した。また、非和声音の響きやメロディの表現は官能的な情感を醸し出す。
ルトスワフスキ「ピアノ・ソナタ」について、福間はラヴェル「ソナチネ」に似ているという。
第1楽章では、繊細な音の綾の重なり合いに、対話のような親密さを覚える。第2楽章において慈しむように奏でられる音の一つひとつは、悲しくも美しい。そして第3楽章に入ると、彼は豊かな響きを築き上げていき、楽章の終盤では音が遥か彼方に去っていくかのように表す。その余韻は儚(はかな)さを湛(たた)えていた。
休憩を挟んで、ラヴェル「夜のガスパール」とシマノフスキ「仮面劇」。それぞれの3曲を交互に配置し、作品の結びつきを強く意識させた。福間の透き通るような硬質の響きと鋭敏な打鍵は、音楽に鮮やかな陰影を与える。神秘的なサウンドに包まれたラヴェルの「オンディーヌ」。聴く者をその静寂の空間へといざなう。シマノフスキの「シェへラザード」における夜の静けさを思わせる表現や、「ドン・ファンのセレナーデ」でのモノローグのように音楽を語る場面に心を奪われる。とりわけ「仮面劇」においては、不協和音の織りなす混濁を細やかに奏し、輻輳(ふくそう)した音の構築物を創り上げた。
福間の演奏は真に迫る。プログラムを通して、彼はこれらの作品を通底する深い世界を描き上げた。アンコール2曲もラヴェル作品。開演前にはプレトークも行われるなど、充実のリサイタルであった。(道下京子)
公演データ
福間洸太朗ピアノ・リサイタル
Vagues ravéliennes~ラヴェルの波動
2月21日(土) 14:00東京文化会館 小ホール
プログラム
ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ
ラヴェル:ソナチネ
ルトスワフスキ:ピアノ・ソナタ
ラヴェル:「夜のガスパール」より第1曲〝オンディーヌ〟
シマノフスキ:「仮面劇Op.34」より第1曲〝シェヘラザード〟
ラヴェル:「夜のガスパール」より第2曲〝絞首台〟
シマノフスキ:「仮面劇Op.34」より第2曲〝道化のタントリス〟
ラヴェル:「夜のガスパール」より第3曲〝スカルボ〟
シマノフスキ:「仮面劇Op.34」より第3曲〝ドン・ファンのセレナーデ〟
アンコール
ラヴェル:水の戯れ
ラヴェル:「鏡」より〝道化師の朝の歌〟
みちした・きょうこ
桐朋学園大学音楽学部作曲理論学科卒業、埼玉大学大学院文化科学研究科修士課程修了。共著「ドイツ音楽の一断面――プフィッツナーとジャズの時代」など。「音楽の友」「ショパン」などの 音楽月刊誌や書籍、新聞、Web媒体、演奏会プログラムやCDの曲目解説など、ピアノのジャンルを中心に音楽経験を活かした執筆を行なっている。










