小澤征爾氏追悼となった武満徹「ノヴェンバー・ステップス」とベートーヴェン「交響曲第2番」
2018年から6年にわたり読響首席客演指揮者を務め、3月末で退任する山田和樹が、任期最終公演の1つで記憶に残る名演を披露した。
![山田和樹指揮、読売日本交響楽団 (c)読売日本交響楽団 撮影=堀田力丸](https://classicnavi.jp/wp-content/uploads/2024/02/66e091bc2d19932de79e174ad215915d-2-1024x683.webp)
最初のバルトーク「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」は、採れたてのオレンジを絞ったようなフレッシュな演奏。テンポの速い第2、第4楽章では山田の踊るような指揮からエネルギッシュで切れの良い音楽が生まれた。
後半が始まる前に山田がマイクを持ち登場、『小澤征爾先生が亡くなられました(2月6日逝去)』と告げると場内がどよめいた。奇(く)しくも休憩後の曲目は小澤さんが1967年11月9日ニューヨークで初演した武満徹「ノヴェンバー・ステップス」と、同日指揮したベートーヴェン「交響曲第2番」。山田は『本日の演奏を小澤先生に捧(ささ)げます』と述べた。
![小澤征爾さんの訃報に接し、言葉を述べる指揮者の山田和樹(c)読売日本交響楽団 撮影=堀田力丸](https://classicnavi.jp/wp-content/uploads/2024/02/8169add18e93b0f7c94cd8e7fbe321c5-2-1024x683.webp)
「ノヴェンバー・ステップス」は、尺八の藤原道山と琵琶の友吉鶴心が気迫の籠(こ)もった演奏を展開。尺八の「ムラ息」(息のかすれた音)や、琵琶の「ハタキ」(バチを胴体に打ちつける奏法)と「サワリ」(弦のビビリ音)が慟哭(どうこく)のように響き渡り、胸を打った。
![尺八の藤原道山と琵琶の友吉鶴心による気迫の籠もった「ノヴェンバー・ステップス」(c)読売日本交響楽団 撮影=堀田力丸](https://classicnavi.jp/wp-content/uploads/2024/02/014cfe2668299a72d0f3addb9bbd26f3-1024x683.webp)
バルトークも武満も弦楽器は左右二群に分かれるが、山田の考えでベートーヴェン「交響曲第2番」も第2ヴァイオリンを中心に、弦が左右に分かれた。第3楽章スケルツォ前半では、ステレオ効果のように弦を左右交互に演奏させ、聴き手を驚かせた。16型で、木管とホルンは指定の倍の4管という大規模な編成にもかかわらず、読響は室内楽のように俊敏で火を吹くような熱い演奏を繰り広げた。これには聴衆も熱狂、楽員が退出した後も止(や)まない拍手に山田はコンサートマスターの林悠介を伴いステージに再度登場、それが終わるや否やロビーに出て能登半島地震の募金箱を持って立った。
(長谷川京介)
公演データ
山田和樹指揮 読売日本交響楽団 第635回定期演奏会
2024年2月9日(金) 19:00 サントリーホール
指揮:山田和樹
尺八:藤原道山
琵琶:友吉鶴心
コンサートマスター:林 悠介
プログラム
バルトーク:弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽 BB 114
武満徹:ノヴェンバー・ステップス
ベートーヴェン:交響曲第2番 ニ長調 作品36
![Picture of 長谷川京介](https://classicnavi.jp/wp-content/uploads/2024/02/hasegawa-300x266.webp)
はせがわ・きょうすけ
ソニー・ミュージックのプロデューサーとして、クラシックを中心に多ジャンルにわたるCDの企画・編成を担当。退職後は音楽評論家として、雑誌「音楽の友」「ぶらあぼ」などにコンサート評や記事を書くとともに、プログラムやCDの解説を執筆。ブログ「ベイのコンサート日記」でも知られる。