歌謡性や劇的表現力を存分に発揮したチョン・ミョンフン&東京フィルコンビならではの力演!
名誉音楽監督チョン・ミョンフンを迎えた東京フィルの2月定期シリーズ/定期演奏会は、ウェーバー、ブルッフ、メンデルスゾーンとドイツ・ロマン派の名品を並べた。基本的に12型の小ぶりな編成ながら低弦のプルトを増強した組成は、中低域の厚みや底力を志向するマエストロ好みのパターン。指揮者と楽団双方が本質的に備える歌謡性や劇的表現力がよく発揮された、このコンビならではの力演になった。
ウェーバーの歌劇「魔弾の射手」序曲には作曲家の没後200年を祝う意味もあろう。歌劇場での経験が豊富なマエストロには、ドイツ国民オペラを確立した傑作は、おはこの一つだろう。東京フィルでもスペシャル・アーティスティック・アドバイザーに就いた2001年の「オペラ・コンチェルタンテ」シリーズで、さっそく取り上げていた。
翳(かげ)りある音色を深い呼吸で紡いでいく序奏部からドラマティックな雰囲気が濃厚で、速めのテンポで緊張感を高める中間部との対比が巧み。主人公の恋人アガーテのテーマが晴れやかに再登場するフィナーレの解放感が、すがすがしい。
ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番で独奏を務めたのは、ドイツを拠点に活動する若手の岡本誠司。なかなか1位を出さない難関・ARDミュンヘン国際音楽コンクールを2021年に制した名手だ。バロック期のピリオド奏法にも通じ、幅広い活躍が続く。
岡本はさわやかな清涼感ある歌い口で曲の味わいをストレートに引き出し、表情に端正な均衡感を浮かべる。あくまで作品を尊重し、過度に自己主張しない誠実なスタイルが格調の高さに結びつく。音色には滑らかな色艶があり、第2楽章アダージョの甘美な主題がひときわ魅力的に響いた。情熱的な第3楽章は適度な粘りある質感で歌い進め、熱量を上げるバックと一気に高揚した。アンコールのバッハは、ノン・ヴィブラートのピリオド奏法にさっと切り替え、はっきり様式感を使い分ける二刀流の真価を見せつけた。
マエストロのロマンティックな性質がいっそう明確になったのは、後半に置かれたメンデルスゾーンの交響曲第3番「スコットランド」。各楽章の色合いを的確に表出した。
第1楽章冒頭の陰影あふれる旋律から持ち前の歌ごころが全開となり、寂寥感に満ちた情動がじんわり染みる。テンポを速めた主部では、決然と引き締まった表情の彫りが深い。軽快なスケルツォの第2楽章ではキビキビとした運動性が快適だ。アダージョの第3楽章では一転して深々とした歌が表れ、歯切れ良いカンタービレとシンフォニックなうねりの利いた終楽章と有意なコントラストを成した。
東京フィルのよく歌う性格が相乗効果を上げ、クラリネット首席のアレッサンドロ・ベヴェラリを始めとする木管セクションの健闘が光った。
(深瀬満)
公演データ
東京フィルハーモニー交響楽団 第1028回サントリー定期シリーズ
2月18日(水)19:00サントリーホール 大ホール
指揮:チョン・ミョンフン(名誉音楽監督)
ヴァイオリン:岡本誠司
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:近藤 薫
プログラム
ウェーバー:歌劇「魔弾の射手」Op.77より序曲【ウェーバー没後200年】
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲 第1番ト短調 Op.26
メンデルスゾーン:交響曲 第3番イ短調 Op.56「スコットランド」
ソリスト・アンコール
J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト短調 BWV1001よりアダージョ
他日公演
2月21日(土)14:00長岡市立劇場 大ホール
2月23日(月・祝)15:00 Bunkamuraオーチャードホール
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。










