N響と深い信頼関係で結ばれたソヒエフのタクトによって導き出された充実のマーラー6番
NHK交響楽団は今年秋、創立100年を迎える。アニバーサリーイヤーの幕開けを飾る1月定期Aプロは、トゥガン・ソヒエフが指揮台に立ち、マーラーの交響曲第6番が取り上げられた。このところ毎年1月の定期ABC全プロを指揮し、首席客演指揮者的な存在であるソヒエフだが、演奏の隅々にまで彼の意図が浸透していることが伝わってくる、緻密で濃厚なマーラーの音楽世界が創出された。
ところで、来年1月はソヒエフのN響客演が予定されていないことから一部ファンの間では噂になっていたが、元日のウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートの指揮を務めることがこのほど発表された。同フィルやベルリン・フィルなどの名門オケと共演を重ね、成功を収めているソヒエフはまさに飛ぶ鳥を落とす勢いである。
さて、当夜のマーラー6番であるが、ソヒエフの勢いとは関係なく、大地にしっかりと根を下したかのごとく、楽想を深く掘り下げた音楽作りが行われた。最新の校訂版を採用、第2楽章をアンダンテ・モデラート、第3楽章をスケルツォの順番、第4楽章のハンマーの打撃は2回であった。
第1楽章、チェロ・バスによるマーチ風の導入は遅めのテンポで大地を踏みしめるような雰囲気。続く第1ヴァイオリンによる第1主題は深い呼吸感をもってタップリと弾かせる。ソヒエフの意図を反映して、弦楽器セクションの厚いサウンドが響きの中核を形作りながら曲は進行していく。ソヒエフは全曲にわたってパート間の音量バランスに心を砕いているようで、提示部を繰り返した後の展開部、チェレスタとカウベルが鳴る中で管楽器が旋律を繋(つな)いでいく際にも弦楽器の音量バランスを巧みにコントロールして、初めて耳にするような美しい響きを紡ぎ出してみせた。
アンダンテの第2楽章は過度にエモーショナルに陥ることなく、旋律を丁寧にパート間で受け渡していく。旋律線は滑らかで楽章のクライマックスに向かって次第に力を蓄積していくように感じた。
第3楽章はマーラーならではの対位法の妙を際立たせる解釈。主旋律だけに重きを置くのではなく、局面によって対旋律を強調することでマーラーが譜面に埋め込んだ〝仕掛け〟に光を当てる効果を生み、立体的な音楽空間が構築された。
第4楽章も一貫して音量バランスを細密にコントロールし音楽が組み立てられていく。時折、テンポを揺らすものの大音量となる箇所では勢いに流されることなく精密に響きが組成され、それは最後まで目を見張るほどの徹底ぶりであった。その結果、ソヒエフの思い描いた作品の世界観が余すことなく表現され、アニバーサリーの幕開けに相応しい充実の演奏となった。
(宮嶋 極)
公演データ
NHK交響楽団 第2054回 定期公演Aプログラム
1月17日(土)18:00 NHKホール
指揮:トゥガン・ソヒエフ
管弦楽:NHK交響楽団
コンサートマスター:郷古 廉
プログラム
マーラー:交響曲第6番イ短調「悲劇的」
他日公演
1月18日(日)14:00 NHKホール
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。










