ファビオ・ルイージ指揮 NHK交響楽団 第2053回 定期公演

ルイージ&N響、充実の「今」を示すニルセン。鮮烈な印象を残したショパン・コンクールの覇者エリック・ルー

N響定期に初登場したショパン国際ピアノコンクールの優勝者エリック・ルー(中央)と指揮のファビオ・ルイージ(右)、コンサートマスター川崎洋介 写真提供=NHK交響楽団
N響定期に初登場したショパン国際ピアノコンクールの優勝者エリック・ルー(中央)と指揮のファビオ・ルイージ(右)、コンサートマスター川崎洋介 写真提供=NHK交響楽団

前半は「第19回ショパン国際ピアノコンクール優勝者がショパンのピアノ協奏曲の第1番か第2番を弾く」という設定。2025年10月21日に第1位を得た27歳の中国系米国人、エリック・ルーは本選で演奏したのと同じ第2番でN響デビューを飾った。ファビオ・ルイージが前奏を振り始めて間もなく震度3の地震が起きたが、演奏は整然と進行した。いや、整然とし過ぎていて音楽的感興は「今ひとつか」と思ったのも束の間、ルーのピアノが入ると光景が一変した。

N響との初共演で第一級のアーティストの風格を感じさせる演奏を聴かせたルー 写真提供=NHK交響楽団
N響との初共演で第一級のアーティストの風格を感じさせる演奏を聴かせたルー 写真提供=NHK交響楽団

ゆっくりと語りかけるように音を紡ぎ、詩情豊かに再現していく。音量はたっぷり、弱音にも芯が通っている。装飾音を細やかに施し、煌(きら)びやかな宝飾品のように仕上げる趣で〝ドヤ顔〟は皆無、すでに大人の品格を備えた第一級のアーティストだと感心した。第3楽章の鮮やかなリズム感に至るまで高い完成度を示したなか、終結部を告げるホルンのソロの頼りなさは残念だった。アンコールのバッハで示した様式感の洗練も含め、今後に大きな期待を抱かせるピアニストである。

N響から燃焼度の高い演奏を引き出す首席指揮者のファビオ・ルイージ 写真提供=NHK交響楽団
N響から燃焼度の高い演奏を引き出す首席指揮者のファビオ・ルイージ 写真提供=NHK交響楽団

後半はデンマークの作曲家ニルセンの「不滅」交響曲。ルイージは首席指揮者を務めるデンマーク国立交響楽団と交響曲全集のディスク(ドイツ・グラモフォン)を2019〜22年に録音するなど、かねてよりニルセンに傾倒してきた。N響の編成は前半の14型(第1ヴァイオリン14人)から16型に拡大、オーケストラは冒頭から激しく燃焼した。

第一次世界大戦の時代を背景に個人の当たり前の日常と社会、国家、世界のせめぎ合いを描き、人間の「生」が生み出す芸術の価値を切れ目なく訴えるーールイージとN響は目まぐるしく変転する曲想を渾身(こんしん)の一体感で再現、両者の充実した「今」を輝かしい音色とともに強く印象づけた。弦5部(第1&第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)は高い水準で均衡し、木管の首席奏者たちも粒ぞろい。さらにチェロの水野優也、ティンパニの岡部亮登(東京フィルハーモニー交響楽団)、古川翔也(中国・深圳交響楽団)らゲスト奏者のソロが強い存在感を放った。
(池田 卓夫)

ニルセン「不滅」交響曲は2組のティンパニが活躍する 写真提供=NHK交響楽団
ニルセン「不滅」交響曲は2組のティンパニが活躍する 写真提供=NHK交響楽団

公演データ

NHK交響楽団第2053回定期公演(12月定期公演Cプログラム

12月12日(金)19:00 NHKホール

指揮:ファビオ・ルイージ
ピアノ:エリック・ルー(第19回ショパン国際ピアノコンクール優勝者)
管弦楽:NHK交響楽団
コンサートマスター:川崎 洋介

プログラム
ショパン:ピアノ協奏曲第2番ヘ短調Op.21
ニルセン:交響曲第4番Op.29「不滅」

アンコール
J・S・バッハ:ゴルトベルク変奏曲Bwv.988「アリア」(ソリスト)

他日公演
12月13日(土)14:00 NHKホール

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池田 卓夫

いけだ・たくお

2018年10月、37年6カ月の新聞社勤務を終え「いけたく本舗」の登録商標でフリーランスの音楽ジャーナリストに。1986年の「音楽の友」誌を皮切りに寄稿、解説執筆&MCなどを手がけ、近年はプロデュース、コンクール審査も行っている。

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