藤原歌劇団公演 ラ・トラヴィアータ 〜椿姫〜

出色のヴィオレッタ! 迫田美帆が終始艶と力のある声で魅了

藤原歌劇団の「ラ・トラヴィアータ~椿姫〜」は、年に1度の新国立劇場&東京二期会との共催公演。3団体の合唱団が参加し、会場も新国立劇場が使用された。なお本演目は9月5、6、7日に開催される(足を運んだのは初日)。

パリのヴィオレッタの館 ©公益財団法人日本オペラ振興会(写真撮影:池上直哉)
パリのヴィオレッタの館 ©公益財団法人日本オペラ振興会(写真撮影:池上直哉)

今回ヴィオレッタ役は3日全て、アルフレードとジェルモン役は中日が異なる。とはいえ、本作はこの3役─特にヴィオレッタ─の出来栄えで印象が決まる。その点、5日の3人は極上で、中でもヴィオレッタ役の迫田美帆が素晴らしい。彼女は終始艶と力のある声でニュアンスに富んだ歌唱を聴かせ、第1幕から第3幕へのグラデーションも絶妙。第1幕最終盤の有名なアリアでは表情豊かな歌い回しを披露し、最後はオクターブ上げて華麗に締めくくった。第2幕第1場後半の超弱音にも感嘆させられたし、「さようなら、過ぎ去った日の美しく楽しい夢よ」のあえかな絶唱をはじめ第3幕は全てが圧巻。今回の迫田はこれまで生で接した数多のヴィオレッタ中のNo.1と言っても過言ではない。

ヴィオレッタ(迫田美帆・左)とジェルモン(須藤慎吾・右)©公益財団法人日本オペラ振興会(写真撮影:池上直哉)
ヴィオレッタ(迫田美帆・左)とジェルモン(須藤慎吾・右) ©公益財団法人日本オペラ振興会(写真撮影:池上直哉)

アルフレード役の笛田博昭もハリのある輝かしい声で直情的な青年を見事に表現。ジェルモン役の須藤慎吾は立派ながらも若干弱さのある声で年上感を醸し出す。(意外に多い)同役の強さや威厳が勝る舞台にやや違和感を覚えてきたので、今回の父子のバランスには大いに納得させられた。

アルフレード(笛田博昭・左)とヴィオレッタ(迫田・右) ©公益財団法人日本オペラ振興会(写真撮影:池上直哉)
アルフレード(笛田博昭・左)とヴィオレッタ(迫田・右) ©公益財団法人日本オペラ振興会(写真撮影:池上直哉)

かように〝声のオペラ〟としては大成功の公演。ただし指揮の阿部加奈子は、本作のベルカント・オペラ的な側面(声ではなく、いわゆる「ブンチャカ」調のリズムやトーン)を極力排除し、ヴェルディ後期風のドラマ性を強調する。それゆえ、二重唱の場面等の緊迫感や、場面ごとに1つのドラマが構築されるシリアスな運びが清新な感触をもたらす一方で、〝流れ〟や〝弾み〟が希薄になった。これも1つの見識だが、好悪が分かれるところだ。

何れにしても、第1幕前奏曲の最後から本編に移る箇所の管弦楽が全く揃わず、しかもその後しばらく安定しなかったのは、著しくいただけない。ここは暗明が交代して劇に導く重要な部分だけに、「初日だから」や「単なる事故」で済まされる問題ではないだろう。
粟國淳の演出に関しては、プレミエではないので深入りを避けるが、絵画をモティーフにした華美に過ぎない舞台や、ヴィオレッタ一人になるラストはなかなか悪くない。しかし絵画にも各々意味があったようで、一見では把握し難かったのが残念だ。
(柴田克彦)

公演データ

藤原歌劇団公演 ラ・トラヴィアータ 〜椿姫〜

9月5日(金)14:00 新国立劇場 オペラパレス

指揮:阿部 加奈子
演出:粟國 淳

公演監督:斉田正子
美術/衣裳:アレッサンドロ・チャンマルーギ
照明:原中治美
振付:伊藤範子
舞台監督:菅原多敢弘

ヴィオレッタ:迫田 美帆
アルフレード:笛田 博昭
ジェルモン:須藤 慎吾
フローラ:古澤 真紀子
ガストン:堀越 俊成
ドゥフォール:江原 啓之
ドビニー:坂本 伸司
グランヴィル:豊嶋 祐壹
アンニーナ:石井 和佳奈
ジュゼッペ:濱田 翔

使者:江原 実
召使:岡山 肇

合唱:藤原歌劇団合唱部、新国立劇場合唱団、二期会合唱団
合唱指揮:安部克彦
ダンサー:水 友香里、浅井敬行
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

プログラム
ヴェルディ:歌劇「ラ・トラヴィアータ」(椿姫)
オペラ全3幕 字幕付き原語(イタリア語)上演

他日公演
9月6日(土)、7日(日)14:00 新国立劇場 オペラパレス

※他日公演の出演者等、詳細は公式サイトをご参照ください。
ラ・トラヴィアータ 〜椿姫〜 | JOF 公益財団法人日本オペラ振興会

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柴田克彦

しばた・かつひこ

音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。

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