歌唱、演奏、演出のどれもが国際水準!松本からワールド・クラスのオペラを発信
セイジ・オザワ松本フェスティバル(OMF)の今年のオペラは、ブリテンの「夏の夜の夢」。シェイクスピアの戯曲のオペラ化の例は、ヴェルディをはじめ、いくつもあるが、イギリス人であるブリテンの本作品は、シェイクスピアのテキストをそのまま使う箇所もあり、良い意味で演劇的であり、作曲者のシェイクスピアへのリスペクトが強く感じられた。指揮はOMF首席客演指揮者である沖澤のどか。演奏はサイトウ・キネン・オーケストラ。ロラン・ペリーが演出・装置・衣裳を担った。

沖澤の指揮は、キレが良く、明晰で、ドラマをテンポ良く進める。また、音楽作りが丁寧で、たとえば第2幕終結部のオーケストラの柔らかな音がとても魅力的。そして、第3幕での4人の恋人が目覚めていくシーンが美しく、感動的であった。そのほか、OMF児童合唱団の歌唱と演技も賞賛に値する。


ペリーの演出は、宙吊りや鏡を用い、バルコニー席まで使った、空間的な広がりが素晴らしい。モダンであり、かつ、幻想的。個々の歌手への演技の徹底もなされ、動きが美しい。(冒頭、ハーミアのベッドから始まったのは、この舞台全体がハーミアの夢であることを示唆するのであろうか?)
歌手たちは海外から招聘されていたが、いずれもレベルが高い。演技力も優れ、音楽的にも演劇的にも魅了された。とりわけオーベロン役のカウンターテナーのニルス・ヴァンダラーが主役の活躍。また、オーベロンに仕えるパック役(演技)のフェイス・プレンダーガストが、男とも女とも、大人とも子供とも知れない不思議な(役柄にふさわしい)存在感を示し、強烈な印象を残した。そのほか、タイターニアのシドニー・マンカソーラ、4人の恋人たち、デイヴィッド・ポルティーヨ、サミュエル・デール・ジョンソン、ニーナ・ヴァン・エッセン、ルイーズ・クメニーが好演。6人の職人、シーシアス、ヒポリタに至るまで充実していた。


歌唱、演奏、演出のどれもが国際水準であり、「ワールド・クラスのオペラを松本から発信する」という小澤征爾永世総監督の遺志を十分に受け継ぐ舞台となった。
(山田治生)
公演データ
2025セイジ・オザワ 松本フェスティバル
オペラ ブリテン「夏の夜の夢」
8月17日(日)15:00まつもと市民芸術館・主ホール
指揮:沖澤のどか(OMF首席客演指揮者)
演出・装置・衣裳:ロラン・ペリー
装置補:マッシモ・トロンカネッティ
衣裳補:ジャン=ジャック・デルモット
照明:ミシェル・ル・ボーニュ
オーベロン:ニルス・ヴァンダラー*
タイターニア:シドニー・マンカソーラ
パック:フェイス・プレンダーガスト
シーシアス:ディングル・ヤンデル
ヒポリタ:クレア・プレスランド
ライサンダー:デイヴィッド・ポルティーヨ
ディミートリアス:サミュエル・デール・ジョンソン
ハーミア:ニーナ・ヴァン・エッセン
ヘレナ:ルイーズ・クメニー
ボトム:デイヴィッド・アイルランド
クインス:バーナビー・レア
フルート:グレン・カニンガム
スナッグ:パトリック・グェッティ
スナウト:アレスデア・エリオット
スターヴリング:アレックス・オッターバーン
児童合唱:OMF児童合唱団
管弦楽:サイトウ・キネン・オーケストラ
プログラム
ブリテン:「夏の夜の夢」全3幕 原語(英語)上演/日本語字幕付き全3幕
他日日程
8月20日(水)17:00、24日(日)15:00 まつもと市民芸術館・主ホール

やまだ・はるお
音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。