自在に弾かれたヴィエニャフスキの超絶技巧、秩序と熱が好バランスのベト7
第17回ハチャトゥリアン国際コンクール指揮部門の覇者、出口大地が登場。ベートーヴェンの劇付随音楽「エグモント」序曲は、導入部の悲劇性より、クライマックスの勝利の表現のほうに説得力があった。そのことは後半に聴く交響曲第7番を予見するうえで、悪い兆しではない。

続いて、ポーランド生まれでヴァイオリンのヴィルトゥオーゾだったヘンリク・ヴィエニャフスキのヴァイオリン協奏曲第2番。ソリストは、2022年にまさにヴィエニャフスキ国際ヴァイオリン・コンクールで優勝した前田妃奈だった。超絶技巧を交えながら、軽々と弾き進める。
その旋律も超絶技巧も急速度も、18世紀のオペラ・セリアや19世紀初頭のベルカント・オペラのアリアに似たところがある。往時の名歌手が自在に歌うあまり、オーケストラを追い越してしまうかのようで、出口指揮の東京フィルとの対話云々を言い出せばいろいろあるが、ヴィルトゥオーゾを管弦楽が追いかけるのを含め、そのころのオペラが好きな筆者には、すこぶるおもしろかった。


アンコールはヨーゼフ・シュトラウスのピッツィカート・ポルカ。高揚したあとに、ぴたりと揃ったピッツィカートが心地よかった。
(香原斗志)
公演データ
フェスタ サマーミューザKAWASAKI 2025 東京フィルハーモニー交響楽団
ほとばしるヴィエニャフスキ、駆け抜けるベト7
8月6日(水)15:00ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:出口大地
ヴァイオリン:前田妃奈
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:依田真宣
プログラム
ベートーヴェン:劇付随音楽「エグモント」Op.84序曲
ヴィエニャフスキ:ヴァイオリン協奏曲 第2番 ニ短調 Op.22
ベートーヴェン:交響曲第7番 イ長調 Op.92
ソリスト・アンコール
ヨアヒム:スコティッシュ・メロディ
オーケストラ・アンコール
ヨーゼフ・シュトラウス:ピッツィカート・ポルカ

かはら・とし
音楽評論家、オペラ評論家。オペラなど声楽作品を中心に、クラシック音楽全般について執筆。歌唱の正確な分析に定評がある。著書に「イタリアを旅する会話」(三修社)、「イタリア・オペラを疑え!」(アルテスパブリッシング)。ファッション・カルチャー誌「GQ japan」web版に「オペラは男と女の教科書だ」、「モーストリークラシック」誌に「知れば知るほどオペラの世界」を連載中。歴史評論家の顔も持ち、新刊に「教養としての日本の城」(平凡社新書)がある。