山田和樹指揮 バーミンガム市交響楽団 東京公演 チェロ シェク・カネー=メイソン

豪快で賑やか!最初から最後まで音楽の楽しさに満ちた公演

この6月にベルリン・フィルの定期演奏会デビューを飾った山田和樹が、音楽監督を務めるバーミンガム市交響楽団とともに日本ツアーを行っている。山田は、2018年にバーミンガム市響の首席客演指揮者となり、2023年には首席指揮者に就任し、2024年から音楽監督のポストにある。山田はこれまでにも2016年と2023年にバーミンガム市響とともに日本公演を行っていた。

山田和樹指揮、バーミンガム市交響楽団が日本ツアーの真っただ中。東京公演の初日は、東京オペラシティコンサートホールで行われたⒸJunichiro Matsuo
山田和樹指揮、バーミンガム市交響楽団が日本ツアーの真っただ中。東京公演の初日は、東京オペラシティコンサートホールで行われたⒸJunichiro Matsuo

6月30日の公演は、ショスタコーヴィチの「祝典序曲」で賑々しく始まる。オーケストラの積極的な演奏で東京オペラシティコンサートホールに溢れるくらいの音圧を感じた。最後は千葉県立幕張総合高校シンフォニックオーケストラ部(アニメ「青のオーケストラ」のモデルとしても知られる)の金管楽器の10名がバンダ(オルガン前に配置)で加わった。

千葉県立幕張総合高校シンフォニックオーケストラ部の金管楽器の10名がバンダで加わったショスタコーヴィチの「祝典序曲」ⒸJunichiro Matsuo
千葉県立幕張総合高校シンフォニックオーケストラ部の金管楽器の10名がバンダで加わったショスタコーヴィチの「祝典序曲」ⒸJunichiro Matsuo

エルガーのチェロ協奏曲では、シェク・カネー=メイソンが独奏を務めた。熱のこもった演奏。大きく速めのヴィブラートでのエスプレッシーヴォな表現が特徴的である。第3楽章では濃密なカンタービレを披露。ソロ・アンコールでボブ・マーリーの「She used to call me dada」をピッツィカートで奏で、柔軟性のある歌心を示した。

エルガーのチェロ協奏曲でソリストを務めたシェク・カネー=メイソンは、熱のこもった演奏を披露したⒸJunichiro Matsuo
エルガーのチェロ協奏曲でソリストを務めたシェク・カネー=メイソンは、熱のこもった演奏を披露したⒸJunichiro Matsuo

メインは、ムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」。山田は、ロンドンのプロムナード・コンサートの創始者の一人であるヘンリー・ウッドが1915年に(つまりラヴェルよりも早い時期に)編曲した版を取り上げた。冒頭、トランペットのソロではなく、金管群の吹奏で始まる。力感あふれる編曲であり、それに合った演奏であった。「古城」ではユーフォニアムが3階バルコニー席で旋律を吹く。「ビドロ」ではカウベルが鳴らされる。「キーウの大門」ではオルガンまで入る。豪快で賑やか。ウッド版と比べたとき、華麗といわれるラヴェル版さえストイックに感じられる。山田はそういう編曲を面白く聴かせてくれた。
アンコールではウォルトンの戴冠行進曲「宝玉と王の杖」がリラックスした雰囲気で演奏された。全体を通して、山田とバーミンガム市響が音楽を楽しむ姿、オーケストラの明るい雰囲気が印象的であった。

ムソルグスキー(ヘンリー・ウッド編曲)の組曲「展覧会の絵」。「キーウの大門」ではオルガンが入ったⒸJunichiro Matsuo
ムソルグスキー(ヘンリー・ウッド編曲)の組曲「展覧会の絵」。「キーウの大門」ではオルガンが入ったⒸJunichiro Matsuo

本公演に先駆けて18時からバーミンガム市響のメンバーによるバーミンガム現代音楽グループ(10数人)のミニ・コンサートが東京オペラシティのリサイタルホールでひらかれた。山田和樹の指揮で藤倉大の「アンセム」(2023)と「笙協奏曲」(2024)(笙:出会ユキ)が日本初演され、指揮者なしのアンサンブルでレベッカ・サンダースの「スターリング・スティル」(2006)が演奏された。同時代の音楽がコンパクトに楽しめる企画であった。

(山田治生)

公演データ

山田和樹指揮 バーミンガム市交響楽団

6月30日(月) 19:00東京オペラシティ コンサートホール

指揮:山田和樹
チェロ:シェク・カネー=メイソン
管弦楽:バーミンガム市交響楽団

プログラム
ショスタコーヴィチ:祝典序曲イ長調Op.96
エルガー:チェロ協奏曲ホ短調Op.85
ムソルグスキー(ヘンリー・ウッド編曲):組曲「展覧会の絵」

ソリスト・アンコール
ボブ・マーリー:「She used to call me dada」

オーケストラ・アンコール
ウォルトン:戴冠式行進曲「宝玉と王の杖」


※これからの他日公演

〇7月1日(火)19:00サントリーホール 大ホール

指揮:山田和樹
ピアノ:河村尚子
管弦楽:バーミンガム市交響楽団

プログラム
ラヴェル:ラ・ヴァルス
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番ハ短調Op.18
チャイコフスキー:交響曲第5番ホ短調Op.64

〇7月2日(水) 19:00サントリーホール 大ホール

指揮:山田和樹
ピアノ:イム・ユンチャン
管弦楽:バーミンガム市交響楽団

プログラム
ショスタコーヴィチ:祝典序曲イ長調Op.96
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第4番ト短調Op.40
ムソルグスキー(ヘンリー・ウッド編):組曲「展覧会の絵」

〇7月4日(金)19:00アクロス福岡シンフォニーホール

指揮:山田和樹
ピアノ:イム・ユンチャン
管弦楽:バーミンガム市交響楽団

プログラム
ラヴェル:ラ・ヴァルス
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第4番ト短調Op.40
チャイコフスキー:交響曲第5番ホ短調Op.64

〇7月5日(土)15:00ロームシアター京都メインホール

指揮:山田和樹
チェロ:シェク・カネー=メイソン
管弦楽:バーミンガム市交響楽団

プログラム
ショスタコーヴィチ:祝典序曲イ長調Op.96
エルガー:チェロ協奏曲ホ短調Op.85
ムソルグスキー(ヘンリー・ウッド編):組曲「展覧会の絵」

〇7月6日(日)14:00横浜みなとみらいホール

指揮:山田和樹
ピアノ:イム・ユンチャン
管弦楽:バーミンガム市交響楽団

プログラム
ラヴェル:ラ・ヴァルス
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第4番ト短調Op.40
チャイコフスキー:交響曲第5番ホ短調Op.64

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山田 治生

やまだ・はるお

音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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