沖澤のどか指揮 京都市交響楽団 大阪特別公演

シンバルを轟かせたチャイコフスキー「第5交響曲」

京都市交響楽団が、常任指揮者の沖澤のどかとともに大阪公演を行なった。ウェーバーの「オイリアンテ」序曲、ブラームスの「ハイドンの主題による変奏曲」、チャイコフスキーの交響曲第5番、というプログラムだ。会場のザ・シンフォニーホールは、ほぼ満席である。

京都市交響楽団の大阪特別公演。常任指揮者の沖澤のどかが指揮台に立った(c)京都市交響楽団
京都市交響楽団の大阪特別公演。常任指揮者の沖澤のどかが指揮台に立った(c)京都市交響楽団

沖澤のどかは、いつものように活気にあふれ、強い推進力を備えた指揮でこの3曲を構築した。前半の2曲を、闊達ではあるものの、どちらかと言えば端整な雰囲気で演奏したのに対し、後半のチャイコフスキーに入ると一気にエネルギーを解放する、といった具合で、この対比は成功していただろう。だがその中でもやはり強く印象づけられるのは、彼女が京響から引き出す、完璧なほどの均衡を備え、かつ各声部が明快に織り成される精密なアンサンブルの妙味なのである。どんなに演奏が激烈になっても、常にどこかに端整な表情が感じられるというのは、そのためかもしれない。

「オイリアンテ」序曲は、歯切れのよいリズムで始まり、各主題があくまでも明晰な表情で躍動しつつ、頂点に導かれた。また「ハイドンの主題による変奏曲」での冒頭で、木管の主題と低弦のピッツィカートの溶け合った響きの美しさは舌を巻くほど見事なものだった。全曲の終わり近くでのバスの主題はあまり強調されていなかったが、耳をそばだてれば明確に聞こえる――というもので、このあたりにも沖澤と京響の響きの特色が現れているだろう。

沖澤は、京響から精密なアンサンブルの妙味を引き出した(c)京都市交響楽団
沖澤は、京響から精密なアンサンブルの妙味を引き出した(c)京都市交響楽団

チャイコフスキーの第5交響曲では、前へ前へと煽り立てるような演奏構築が面白い。第2楽章冒頭のホルンは、よくある夢幻的な歌としてではなく、リアルな雰囲気を以って吹かれていったが、ある意味ではそれがこの曲の演奏全体の特徴を象徴しているともいえよう。
第4楽章はまさに総譜の指定通りのヴィヴァーチェな演奏だったが、この楽章での最大の話題は、終結部の行進曲調主題の頂点を輝かしく飾ったシンバル(!)の一撃であろう。もともと総譜にはないこの楽器を加えた演奏は、ウィレム・メンゲルベルク(コンセルトヘボウ管とベルリン・フィル)、パウル・ファン・ケンペン(コンセルトヘボウ管)の指揮がディスクに記録されているが、この2人の挿入個所はそれぞれ異なる(しかも後者は2回叩かせている)。沖澤がシンバルを轟かせた個所は第502小節の1拍目で、これはメンゲルベルクのそれと同じだ。論議を呼ぶ手法だが、効果が絶大であることは事実である(セル指揮クリーヴランド管の1959年盤にもシンバルが聞かれると言われるが、プレスにより差異が生じているので、疑問が残る)。

アンコールは、同じチャイコフスキーの「エフゲニー・オネーギン」からの「ポロネーズ」。これはもう、屈託ない豪壮華麗な曲だ。第5交響曲のあとと同じように、客席はひたすら沸きに沸いていた。

(東条碩夫)

客席がひたすら沸きに沸き、大盛況のうちに幕を閉じた(c)京都市交響楽団
客席がひたすら沸きに沸き、大盛況のうちに幕を閉じた(c)京都市交響楽団

公演データ

京都市交響楽団 大阪特別公演

6月29日(日)14:00ザ・シンフォニーホール

指揮:沖澤 のどか(常任指揮者)
管弦楽:京都市交響楽団
コンサートマスター:石田 泰尚 

プログラム
ウェーバー:歌劇「オイリアンテ」序曲
ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲 変ロ長調Op.56a
チャイコフスキー:交響曲 第5番 ホ短調Op.64

アンコール
チャイコフスキー:歌劇「エフゲニー・オネーギン」から〝ポロネーズ〟

Picture of 東条 碩夫
東条 碩夫

とうじょう・ひろお

早稲田大学卒。1963年FM東海(のちのFM東京)に入社、「TDKオリジナル・コンサート」「新日フィル・コンサート」など同社のクラシック番組の制作を手掛ける。1975年度文化庁芸術祭ラジオ音楽部門大賞受賞番組(武満徹作曲「カトレーン」)制作。現在はフリーの評論家として新聞・雑誌等に寄稿している。著書・共著に「朝比奈隆ベートーヴェンの交響曲を語る」(中公新書)、「伝説のクラシック・ライヴ」(TOKYO FM出版)他。ブログ「東条碩夫のコンサート日記」 公開中。

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