王道の独墺プロで端正な演奏を聴かせ、オケの特色を示したラハフ・シャニ指揮 ロッテルダム・フィル
ラハフ・シャニがシェフを務めるロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団の東京公演2日目。1曲目はモーツァルトの「フィガロの結婚」序曲。弦楽器は12型の編成、ヴァイオリンは対抗配置で、チェロ・バスは舞台下手側というセッティング。弦楽器のヴィブラートは控えめでピリオド(時代)奏法に寄せたスタイルであったが、全体のサウンドはふくよかなところがこのオケの持ち味といえよう。

2曲目は庄司紗矢香をソリストに、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲。シャニは12型の弦編成にコントラバスを1人追加して低音を増強し音楽の土台を堅固にした音作り。庄司は全曲にわたって力むことなく、自然体で伸びやかに弾き進めていく。

第2楽章まではテンポを揺らすことなく中庸の速さを維持。第1楽章の展開部ではオケの音量を落として独奏ヴァイオリンと木管との美しい掛け合いに光を当てるなどシャニのセンスが見て取れる。第3楽章では一転、テンポを揺らして表情豊かに音楽が進む。各楽章のカデンツァはベートーヴェン自身が書いたものはなく、ピアノ編曲版をもとにしたもの、ヨアヒム、クライスラーらの名手が作った版などが知られているが、この日は庄司自身が作曲したものを披露。重音や複数メロディーが同時進行する技巧的な音楽で、オケとの融合も自然でここにも彼女の充実ぶりが窺えた。

後半はブラームスの交響曲第4番。弦楽器は14型。第1楽章、第1主題はアウフタクトを強調することなく適度に深みを感じさせる処理で端正に音楽を進める。第2主題で、展開の技法がヴィオラ、チェロに受け継がれていることを明確に示す音量バランスも面白い。全体に過度な表情付けをせずに正攻法な音楽作り。

ロッテルダムは古くからヨーロッパの交通の要衝として知られ、住民の5割以上がオランダ人以外だという。このオケもコントラバス6人全員がフレンチボウなのに対してティンパニはベルリン製の楽器をドイツ配置に。トランペットもドイツ管を使用するなど〝団内の国際色〟も豊か。それが過度な地域色を感じさせないオーソドックスな演奏にも反映されているように思えた。
(宮嶋 極)

公演データ
公演データ
ラハフ・シャニ 指揮 ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団 東京公演2日目
6月27日(金)19:00 サントリーホール 大ホール
指揮:ラハフ・シャニ
ヴァイオリン:庄司 紗矢香
管弦楽:ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団
プログラム
モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」序曲K.492
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.61
ブラームス:交響曲第4番ホ短調Op.98
ソリスト・アンコール
パガニーニ:「うつろな心」による序奏・主題と変奏曲より〝主題〟
アンコール
メンデルスゾーン:無言歌集より「ヴェネツィアの舟歌」Op.19-6
メンデルスゾーン:無言歌集より「紡ぎ歌」Op.67-4
※首都圏の他日公演
6月28日(土)14:00 横浜みなとみらいホール
指揮:ラハフ・シャニ
ヴァイオリン:庄司 紗矢香
管弦楽:ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団
プログラム
モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」序曲K.492
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.61
ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」ホ短調Op.95

みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。