サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン2025 シューマン・クァルテット ベートーヴェン・サイクルⅠ

爽快な現代感覚にあふれる弦楽四重奏

サントリーホールが催す室内楽の祭典「チェンバーミュージック・ガーデン」で主軸をなすひとつが、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲演奏会。今年はドイツ期待のシューマン・クァルテットが8年ぶりに来日し、高峰に挑戦している。マーク、エリック、ケンのシューマン3兄弟を中心に2007年に結成され、ヴィオラがファイト・ヘルテンシュタインに交代後、初の来日となった。

シューマン・クァルテットが8年ぶりに来日
シューマン・クァルテットが8年ぶりに来日

目を引くのは全6回にそれぞれ付されたタイトル。訳すと「アルファとオメガ(始まりと終わり)」「聖なる歌」「光」「影」「自由」「心から」となる。初日は初期の作品18から第1番、脂が乗った中期から第7番「ラズモフスキー第1番」、後期から最後の第16番という組み合わせ。

ソリストとして活躍するエリックが第1ヴァイオリンゆえ、アンサンブルをリードするのもエリック。幼少から兄弟で合奏してきただけに、3人の呼吸は自在。そこへ今井信子に師事したヘルテンシュタインがしっくり絡む。明るく張りのある音色を持ち、筋肉質の運動性やシャープな響きを志向するあたり、やはり若い団体らしい。やみくもにノン・ヴィブラートを濫用せず、オーソドックスなスタイルを保つのも見識だ。

幼少から合奏してきたシューマン3兄弟に、ヴィオラのファイト・ヘルテンシュタインがしっくり絡んだ

初期の作品18は、ふだん演奏頻度の少ない団体だと、全曲演奏会で馬脚を現すケースもある。そこへ行くと当団は作品18を「サイクル全体を支える基盤」と位置づけるだけあって、練度が高い。第1番第1楽章からメリハリある前進力に満ち、さっそうとした流れが際立つ。作曲家が「ロメオとジュリエット」の悲劇から着想したというアダージョの第2楽章は深刻さを意識するよりも、さらっとした澄明な抒情を引きだした。第3楽章のスケルツォでは合奏の密度が増し、緩急や強弱を機敏に操って起伏を表出。アレグロ楽章のフィナーレでは音色やリズムにエッジを効かせ、スポーティーな快感を味わわせた。

こうした作りは続く第7番、16番でも基本的に共通。音楽にタメを作らず、速めのテンポでさらさら進み、爽快な現代感覚にあふれる。最晩年の第16番では気難しさが影をひそめ、平明で快活な要素が表れてきた。中期、後期と進化していく様式の描き分けや緩徐楽章の深遠な境地など、ベートーヴェンらしい特質が続編ではどう表現されるのか、興味をそそるサイクルになりそうだ。

(深瀬満)

公演データ

サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン2025
シューマン・クァルテット ベートーヴェン・サイクルⅠ 

 6月11日(水) 19:00サントリーホール ブルーローズ(小ホール)

弦楽四重奏:シューマン・クァルテット
ヴァイオリン:エリック・シューマン、ケン・シューマン
ヴィオラ:ファイト・ヘルテンシュタイン
チェロ:マーク・シューマン

プログラム
— Alpha and Omega —
ベートーヴェン:
弦楽四重奏曲第1番ヘ長調 Op.18-1
弦楽四重奏曲第7番ヘ長調 Op.59-1「ラズモフスキー第1番」
弦楽四重奏曲第16番ヘ長調 Op.135

アンコール
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第2番ト長調 Op.18‐2より第3楽章 スケルツォ

※他日公演
6月12日(木)19:00、14日(土)19:00、15日(日)14:00、17日(火)19:00、18日(水)19:00
サントリーホール ブルーローズ(小ホール)

各日程のプログラム詳細は、下記公式サイトをご参照ください。
サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン 2025 「シューマン・クァルテット ベートーヴェン・サイクル」 主催公演 サントリーホール

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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