永遠のスター集団、レ・ヴァン・フランセが音楽語法のそろった名技を聴かせる
「フランスの風」——この風=ウィンドは管楽器にも引っかけている――とは、なんて小粋なネーミングだと、いつもうならされる。そんなドリーム・チームが日本を定期的に訪れるようになって、すでに4半世紀近く。音楽語法のベクトルがぴたりとそろった達人たちの名技は相変わらずで、今回もみごとな合奏で魅了した。

グループの出自からいって、演目はフランスもの中心。幕開けのルーセル「ディヴェルティスマン」から鼻の奥をツンと刺すような本場の洒脱な感覚がほとばしる。ことに耳に付くのは、軽妙なしゃれっ気をまとうエリック・ル・サージュのピアノと、かぐわしく澄明なフランソワ・ルルーのオーボエだ。冴え冴えとしたハーモニー、すばやい運動性や濃厚な色彩感といった鋭敏なキャラクターの総合は、やはり他の追随を許さない。
目玉は2曲目、フランスのオーボエ奏者・作曲家、ジル・シルヴェストリーニ(1961~)による「ピアノと管楽器のための六重奏曲」。当グループとピアノのル・サージュに捧げられ、2024年6月に完成、このツアーが世界初演となった。
デリケートな弱音で始まる第1楽章のトランキル(静かに)は、主部に入ると管楽器群とピアノの緊密な対話に発展し、練られたアンサンブルの妙が浮かび上がる。第2楽章のヴィフ(急速に)では速いテンポで旋律が駆け巡り、彼らの特質を念頭に書かれたことがよく分かる。

前半最後のテュイレはイタリア出身、ドイツで活躍した作曲家(1861~1907)で、六重奏曲はロマンティックな佳品。メンバーは余裕しゃくしゃくで、響きは滑らかでシームレス。第3楽章ガヴォットの諧謔味は、この団体の独壇場だ。
後半はフランスに戻り、カプレの五重奏曲、プーランクの六重奏曲と続く。特に後者はグループの名刺代わりとなる十八番だ。辛口のユーモアやペーソス、気まぐれなメランコリーが塗り込められた複雑な曲想を、快刀乱麻を断つがごとく仕立て、さっそうと繰り出す手法には、いつもながら圧倒される。
会場には若いファンも多く、世代は変われど管楽器をたしなむ層には永遠のスター集団であることを再認識させた。
(深瀬満)

公演データ
レ・ヴァン・フランセ2025年日本公演
3月17日(月)19:00東京オペラシティ コンサートホール
フルート:エマニュエル・パユ
オーボエ:フランソワ・ルルー
クラリネット:ポール・メイエ
ホルン:ラドヴァン・ヴラトコヴィチ
バソン:ジルベール・オダン
ピアノ:エリック・ル・サージュ
プログラム
ルーセル:ディヴェルティスマンOp.6
シルヴェストリーニ:ピアノと管楽器のための六重奏曲(委嘱新作/本ツアーにて世界初演)
テュイレ:ピアノと管楽器のための六重奏曲 変ロ長調Op.6
カプレ:フルート、オーボエ、クラリネット、バソンとピアノのための五重奏曲Op.8
プーランク:ピアノと管楽器のための六重奏曲FP100
アンコール
ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲より「終曲」

ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。