尾高忠明指揮 大阪フィルハーモニー交響楽団 第57回東京定期演奏会

作品の本質に真正面から迫る、自然体の風格に富む至芸

このところベテラン指揮者の逝去や引退が相次ぎ、世代交代の大波が日本のクラシック界を襲っている。そんな中、尾高忠明が放つ存在感は高まる一方だ。尾高自身、この何年か体調に不安を抱え、ことしも年明け早々から降板したばかり。音楽監督を務める大阪フィルとのブルックナー・チクルス締めくくりとなる交響曲第4番「ロマンティック」を前に復調を果たし、約2か月ぶりに指揮台に立った。

ブルックナー・チクルスの締めくくりとして「第4番」を振った尾高忠明(C)堀田力丸
ブルックナー・チクルスの締めくくりとして「第4番」を振った尾高忠明(C)堀田力丸

大阪での定期演奏会2公演を終え、攻めのぼってきた東京定期もプログラムは同じ。前半に松村禎三の「管楽器のための前奏曲」(1968年初演)を置いた。生前の作曲家と交流のあった尾高らしく、共感に満ちたタクトで約17分の名品を手堅くまとめた。

冒頭と結尾に登場する6本のピッコロが織りなす細密なモチーフの絡み合いから、独特の清涼感を引き出し、特異な編成によるユニークな響きを活用。大音響のクライマックスでも、見通し良くディテールを掘り下げた。オーケストラの高い集中力が奏功した。

大阪フィルには朝比奈隆時代からブルックナー演奏のDNAが息づく。尾高も年を重ねるごとにブルックナーへの傾倒を強めている。作曲家の生誕200年を祝った昨年は大阪フィルと交響曲を6曲披露するなど、集中的に取り組んだ。その結びが今回の第4番だ。
改訂の多いブルックナー作品でも第4番は稿や版の問題が複雑だが、尾高が選んだのは最もオーソドックスなノヴァーク版、1878/80年の第2稿。右顧左眄(うこさべん)せず、知り尽くしたスコアで作品の本質に真正面から迫ろうという意図だろう。

オーケストラは、高い集中力でディテールを掘り下げる演奏を披露した(C)堀田力丸
オーケストラは、高い集中力でディテールを掘り下げる演奏を披露した(C)堀田力丸

全曲を通じて、てらいのない整った流動感が支配し、自然体の風格に富む至芸となった。そこに尾高の深みを増す円熟を見てとるのは容易だ。速めのテンポで粘らず端正に進む各楽章の表情には余裕があり、ジェントルな歌い口が気品を醸す。第2楽章の深い森を思わせる柔らかな情感や、第3楽章での弦と金管の立体的なバランスなど、聴きどころも多い。

大阪フィル側の意識は、なじみのある人気作ゆえか、精緻なアンサンブルを築くよりも、ざらっとした質実剛健な音色や質感の方へ向いているようだった。

(深瀬満)

公演データ

大阪フィルハーモニー交響楽団 第57回東京定期演奏会

2月18日 (火)19:00サントリーホール

指揮:尾高忠明
管弦楽:大阪フィルハーモニー交響楽団

プログラム
松村禎三:管弦楽のための前奏曲
ブルックナー:交響曲 第4番 変ホ長調「ロマンティック」(1878/80年 第2稿)

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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