サントゥ=マティアス・ロウヴァリ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 日本公演

「英国楽団のシベリウス」の最新モデルを聴く!

フィルハーモニア管弦楽団の日本ツアーはコロナ禍で世界が〝眠る〟寸前の2020年1月以来5年ぶり。首席指揮者はエサ=ペッカ・サロネンからサントゥ=マティアス・ロウヴァリ(1985年生まれ)に替わったが、同門のフィンランド人で27歳の若返り。東京交響楽団に客演したロウヴァリの日本デビューは2012年と早い。2017年には現在も名誉指揮者を続ける母国のタンペレ・フィルと来日、東京文化会館で今回と全く同じシベリウスの「交響曲第5番」をアンコールの「悲しきワルツ」とともに演奏している。

5年ぶりとなるフィルハーモニア管弦楽団日本ツアーの指揮台に立った、サントゥ=マティアス・ロウヴァリ 撮影:堀田力丸 2025年1月20日 サントリーホール
5年ぶりとなるフィルハーモニア管弦楽団日本ツアーの指揮台に立った、サントゥ=マティアス・ロウヴァリ 撮影:堀田力丸 2025年1月20日 サントリーホール

英国は日本とともに、フィンランド国外でシベリウスの真価を最初に認めた国であり、フィルハーモニア管の演奏にも深い共感がこもる。ロウヴァリは木管楽器のソロを思いっきり自由に吹かせる一方、弦のアンサンブルにダイナミックな揺らぎを与え、時には打楽器奏者らしいエッジの鋭い立たせ方もみせる。すでに5年を経過したコンビだけに解釈のデフォルトを共有し、第2楽章後半では意外なほど濃厚な情感の発露に至った。第3楽章では金管が大活躍、通常よりも明るめのトーンを前面に出しながら、コーダの大きな高揚を築いた。指揮者は明らかに、8年前より大きなスケールを獲得していた。

ブルッフ「スコットランド幻想曲」でソリストを務めた三浦文彰
ブルッフ「スコットランド幻想曲」でソリストを務めた三浦文彰 撮影:堀田力丸 2025年1月20日 サントリーホール

前半には協奏曲が2つ。スコットランドの旋律をちりばめたブルッフの幻想曲はヤッシャ・ハイフェッツの録音以来ロンドンの各オーケストラのオハコであり、フィルハーモニア管も「ニュー・フィルハーモニア」を名乗った時代の1973年にアルテュール・グリュミオーとの名盤を残した。一方、フィルハーモニア管のグリーグといえばディヌ・リパッティ1948年のモノラル録音が今もベストの1つに数えられる。その2曲を21世紀日本の若いソリストが「合わせ上手」のフィルハーモニア管とどう弾くかに、筆者の興味は集中した。ブルッフ「スコットランド幻想曲」の三浦文彰は透明度の高い美音と節度ある表現で楽曲の抒情性を際立たせた。

グリーグ「ピアノ協奏曲」。ピアノは辻井伸行
グリーグ「ピアノ協奏曲」。ピアノは辻井伸行 撮影:堀田力丸 2025年1月20日 サントリーホール

グリーグ「ピアノ協奏曲」の辻井伸行は第1楽章第2主題でモーツァルトを思わせる弱音の妙を聴かせるなどの美点も示したものの、音色の多彩な変化ではオーケストラに一歩譲った。名曲中の名曲で客席を納得させるまでには両者それぞれ、さらなる「芸」の深まりを期待したい。

(池田卓夫)

公演データ

フィルハーモニア管弦楽団 日本公演

1月20日(月)19:00サントリーホール、21日(火)14:00横浜みなとみらいホール

指揮:サントゥ=マティアス・ロウヴァリ
ヴァイオリン:三浦 文彰 ☆
ハープ:ハイディ・クルツェン☆
ピアノ:辻井 伸行 〇
管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団

プログラム
ブルッフ:スコットランド幻想曲Op.46 ☆
グリーグ:ピアノ協奏曲イ短調Op.16 〇
シベリウス:交響曲第5番変ホ長調Op.82

ソリスト・アンコール
リスト:ラ・カンパネラ(ピアノ:辻井伸行)

アンコール
シベリウス:悲しきワルツ

※他プログラムの公演日程等の詳細は、公式ホームページをご参照ください。
サントゥ=マティアス・ロウヴァリ指揮 フィルハーモニア管弦楽団

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池田 卓夫

いけだ・たくお

2018年10月、37年6カ月の新聞社勤務を終え「いけたく本舗」の登録商標でフリーランスの音楽ジャーナリストに。1986年の「音楽の友」誌を皮切りに寄稿、解説執筆&MCなどを手がけ、近年はプロデュース、コンクール審査も行っている。

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